2024年7月16日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年9月21日

 経団連の十倉雅和会長は、ここへ来て「ジャニーズのタレントの人たちはある意味被害者であって加害者ではありません。日々研鑽を積んでいる人の機会を長きにわたって奪うということはまた問題もあると思います」と発言しているが、このような曖昧な姿勢は許されないと考える。

外圧でないと変わらない日本を露呈

 2点目は、告発は外圧頼みで、対策は横並びという業界の思考停止である。今回の事件は、過去にさまざまな告発があり、また訴訟の結果の事実認定もされている。だが、そうした国内の動きだけでは、喜多川の犯罪を暴くどころか、止めることもできなかった。これは社会全体が猛省すべきだ。

 今回このように大きな事件に発展した経緯だが、直接的にはBBCの告発動画が契機となった。だが、この告発が受け入れられた背景にはコンテンツと広告主の国際化という問題がある。

 まずコンテンツということでは、経済衰退の続く日本では国内市場だけを相手にしていては先細りという中で、Netflixなどの外資が出資し、配信先は全世界というビジネスモデルが拡大することとなった。

 その結果として、日本文化ブームの追い風にも乗って、日本発のTVドラマが世界市場に同時配信されるし、そもそも製作元は外資ということになってきた。その延長として、倫理的な基準としては国内ではなく国際基準が適用されるわけで、そのような「変化」を察知した業界全体がBBCの告発を使って「浄化」を図ったという構図がある。

 広告主の事情も同様で、人口減に伴って縮小する国内市場を見切り、Ḿ&A(買収・合併)などで海外の市場を拡大している企業は、やはり国際基準のコンプライアンスを達成する必要がある。そこで、倫理的に問題のある企業との取引を中止するという判断に至ったわけである。

 つまり、外資による配信ビジネスと、広告主の多国籍企業化を通じた「外圧」があり、それがBBC動画という具体的な外圧を契機に噴出することで、初めて犯罪が暴かれたということになる。

 そもそも、一番の問題は未成年に対する組織的な性暴力加害が行われていたことであり、それも地位の優越を乱用した悪質なものであったということだ。それが、いかに悪質であるかを、日本社会は外圧に直面して初めて直視したことになる。これは大変恥ずかしいことで、それこそ「国恥」と言われても仕方がない。

 これに加えて、現在は多くの広告主がジャニーズ事務所への忌避を開始しているが、そこには各企業が真剣に性暴力への認識や、人権の扱いについて悩んだ形跡はない。ある意味で横並びの思考停止が感じられる。

支持を続けるファンに甘えてはならない

 第3の問題はファンの問題である。ジャニーズタレントのファンは、事件が本格的に発覚した後も、タレントへの応援を止めていない。まず指摘したいのは、そのファンの熱心な忠誠心を利用して、それを「ファンクラブの名称変更が出来ないので社名変更も無理」などという弁明に利用するのは姑息だ。

 これとは別に重要なのは、自分の応援するタレントが性暴力の被害者であっても、ファンの多くは「タレントが汚れた存在」だとは思っていないということだ。もちろん、そのような心理が、これまで、そして現在も事件の責任追及を曖昧にするような雰囲気を作り出しているのは事実である。この点はファンも多少の反省は必要だ。


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