2024年12月10日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年8月1日

 中古車販売と自動車整備で事業を急拡大させていたビッグモーターについては、次から次へと「疑惑」が明るみに出ている。企業としての行いの反社会性にも驚くが、創業者の会見もひどいものであった。

 ゴルフボールを靴下に入れて車体を傷つけたことに対して「ゴルフを愛する人への冒涜だ」などと言ってみたり、一連の不正行為については「板金塗装部門が単独で行ったこと。天地神明に誓って知らなかった」と開き直っている。更に、不正に関与した社員に対して「刑事告訴を検討している」などと発言するにいたっては、驚愕するしかない。

さまざまな「疑惑」が噴出しているビッグモーター(つのだよしお/アフロ)

 この「事件」だが、仮に、工場長など現場の責任者が過酷なノルマに耐えかねて違法行為に手を染めていったとしても、経営陣の責任を何としても問うて行かねばならない。金融庁の検査は勿論必要で、保険に関する不正を暴くというルートを掘り続けることで、経営陣の責任の立証にたどり着くことが必要だ。

 だが、それとは別に異常な経営数字を要求することで、現場を違法行為へと追い詰めた一連の誤った経営についても、刑事犯としてその罪を暴くことも必要だ。現時点では、恐らく猛烈な勢いで証拠隠滅と口裏合わせが行われている可能性があり、警察当局は切迫感をもって捜査に当たっていただきたい。

 その一方で、今回の事件の背景には「自動車整備」という職種、あるいは業態に関する環境変化が指摘できる。具体的には、「自動車整備」という業態の売上や、社会的意義が縮小する宿命にあるということだ。

 だからといって、ビッグモーターのように犯罪に手を染めていいわけはないし、犯罪の口実とするのも認めるわけには行かない。けれども、その一方で、この事件は、自動車整備に関する今後についての問題提起になるというのは、また否定できない事実だ。

 狭義の監督官庁である国土交通省だけでなく、経済産業省も含めてこの「自動車整備の今後」について、構造的な認識を示して、効果的な施策に結びつけて頂きたい。問題は3点ある。自動車製造の技術向上による故障の激減、安全装置の普及による衝突の激減、そして電気自動車(EV)化による影響の3点である。


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