2024年12月22日(日)

From LA

2023年7月8日

 米国のジョビー・アビエーションがFAA(米連邦航空局)からの認可を得て、2025年の空飛ぶタクシー開業に向けて有人飛行実験を開始、というニュースが話題だ。トヨタからも出資を受けるジョビーは米における空飛ぶ車のパイオニアとしても知られる。

 ただし、ジョビーが開発するS4と呼ばれる機体は小型のヘリコプターあるいは大型ドローンのような形式で、eVTOL(電動式垂直離着陸)ではあるが、地上を走行することはできない。

FAAによる型式証明取得のプロセスを開始。左端が、ガイさん。右が真紀さん

翼を折りたたむとSUV程度の大きさで地上を車として走行

「本当の意味での空飛ぶ車を開発しているのは我が社だけ」と語るのは、米カリフォルニア州に本拠を置くASKA社の共同設立者、カプリンスキー真紀さんだ。

 カプリンスキーさんは夫であるガイさんと共に2018年にASKA社を設立。現在A5と呼ばれる機体で地上での走行実験を行っている。「ASKA A5」は翼を折りたたむとSUV程度の大きさで地上を車として走行、翼を広げるとVTOLで空に飛び立つことができる。プラグインハイブリッドを採用しているためガソリンエンジンによるレンジエクステンダーで最大飛行距離400キロメートル(km)を移動することが出来る。

 昨年11月よりFAAによる型式証明取得のプロセスを開始しており、FAAにとっても地上走行機能のある航空機、「空飛ぶ車」の型式証明を行う会社はASKAが史上初の試みだという。すでに第1段階はパスしており、最終的に認可が取れるには4~5年かかるが「ASKA A5」は2026年の発売を目指しているという。

 カプリンスキーさんはASKAの開発について車の機能があるからこそ「今あるインフラをそのまま流用できる。地方の小さな空港でも離発着が可能、さらにその空港までの移動は地上走行で行える。充電に関してもEV用の充電ステーションがそのまま使える。さらに翼を畳んだ状態では一般車の駐車場に駐機することも可能だ」と語る。現在開発中の多くの空飛ぶ車が専用の駐機場や離発着場を必要とするのに対し、既存インフラを活用することでオペレーションコストを低く抑えることが可能となるのだ。

人々の生活の質を高める

 元々カプリンスキーさんが空飛ぶ車の開発に着手したのは、シリコンバレー周辺の住宅事情への憂いからだった。「少し郊外に行けば広くて快適な家が手に入るのに、シリコンバレー周辺では狭いアパートでも手が届かないほど高い。ASKAのような移動手段があれば、人々の生活の質を高めることができるのではないか」と考えた。そのためにはドア・ツー・ドアで移動できる、つまり点と点ではなく面と面とをつなぐ乗り物が必要だ。

 現在「ASKA A5」は、300km以上の地上走行実験を行っている。実際の交通規制に従い、他の車に混じって地上を走り、駐車する、空港内で発着場に移動する、などを行っている。地上では時速56km程度の走行が可能だという。

 現時点でASKAには米国、中東、そして日本からすでに予約が入っている。また18年創業から現在までの急速なビジネスの発展により、カプリンスキーさんは米Inc誌が選ぶ23年の「最もダイナミックな女性企業家200人」にも選出された。この中には下着販売で成功する俳優キム・カーダシアンも含まれるなど、話題と注目を集める女性企業家が選ばれているのだ。

 今後だが、まずはFAAから正式な認可を得て発売にこぎつけることが第一目標となるが、ASKAを使ってできるビジネスは幅広い。例えば空飛ぶタクシー以外にも災害時のドクターヘリ、物資搬送などに使える。一般的なVTOLやヘリコプターに比べ、地上を走行できるために時間が節約できる、というアドバンテージがある。


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