米国のトランプ大統領はなぜ、ロシアのプーチン大統領に融和的態度をとり続けるのか――。その背景として見逃せないのが、いまだに全体像がつかめない過去5回の謎めいた両国首脳会談だ。
「最大のミステリー」となっているヘルシンキでの会談
ウクライナに対する度重なる軍事侵攻、国内反対派勢力の徹底した封じ込め……。共産諸国以外の国際世論が圧倒的に対露批判を強める中で、トランプ大統領のプーチン氏に対する一貫した微笑姿勢は際立っている。
最近では先月、ウクライナ戦争について「自分は和平についてのプーチン氏の言葉を信じる」として肩を持つ一方、ウクライナのゼレンスキー大統領については「選挙で選ばれていない独裁者」などと事実と真逆の批判を浴びせた。
プーチン体制に対し厳しい態度で臨んできた過去歴代米大統領とは対照的なトランプ氏のこうした融和的態度は、大統領1期目(2017年1月~21年1月)の就任期間中に行われた5回にもおよぶ謎だらけの首脳会談を通じて培われてきたことは間違いない。
その中で「最大のミステリー」として今なお話題が尽きないのが、18年7月、フィンランドの首都ヘルシンキで行われた直接会談だった。
「初の公式首脳会談」との触れ込みで約2時間にわたり行われたが、異例だったのは、双方ともに側近は誰一人立ち会わせず、終始通訳だけという極めて秘密性の高いやり取りだったことだ。
通常、2国間の首脳会談ではどこの国であれ、通訳以外にも必ず関係閣僚か事情通の政府高官を同席させるのが、外交上の常識となっている。これは、口頭での首脳同士のやり取りを正確に記録し、会談後の記者会見などの場での内容説明に齟齬をきたさないためだ。
ところが、ヘルシンキ会談では、トップ同士の会談に先立ち米露政府代表団が一同に顔を合わせる夕食会にこそ、米側はトランプ大統領のほか、外交トップであるレックス・ティラーソン国務長官、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が同席したが、夕食後の本番では二人は外され、両国語の通訳を介した両大統領だけの話し合いとなった。このため、実際に両首脳との間でどんなやり取りがあったのか、何らかの合意が見られたかも含め一切不明のまま終了するという前代未聞の事態となった。終了後、協議内容の概略に触れる共同コミュニケなどの発表さえなかった。