ロシアのプーチン大統領と米国のトランプ大統領の電話会談が3月18日、行われた。その成果に日本を含む西側の報道は否定的で、『プーチン氏、ウクライナ停戦案を拒否』、『米国の停戦案をロシアが拒否』といったヘッドラインが目立ったが、実体はどうであったのだろう。

露政府のクレムリンサイト(kremlin.ru)と在露米国大使館サイト(usembassy.gov)の公式発表やその後の外交的な動きを踏まえると、実態がよりクリアに見えてくる。18日に行われたのは首脳レベルの電話会談であり共同コミュニケが出た訳ではないため、両国政府の認識にニュアンスの違いが窺えたものの、筆者は局面を打開する「重要な前進」があったと考える。
「前進」と言える3つの点
ポイントは三点ある。一つ目は、「エネルギーインフラ」へのロシアとウクライナ双方による攻撃停止、いうなれば一時停戦ならぬ部分的な停戦が合意されたことだ(3月21日付日経はこれを「部分停戦」と呼称)。この部分停戦は、黒海の安全航行に範囲を拡大の上、完全な和平合意にむけた努力を続けることが米露首脳間で共有された。
米国側は部分停戦の期間を指定しておらず(注:ロシア側は30日間と発表)、かつ電話会談直後にホワイトハウスのレビット報道官は「エネルギーとインフラ」と、より幅広く解釈可能な表現を使ったが、その後の3月19日のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領による電話会談では、「エネルギー」に対する攻撃の一時停止につきウクライナ側から合意を取り付けたと公表した。
ロシアがウクライナへ全面侵攻して丸3年。ウクライナを戦場とするロシアVS欧米の代理戦争は先行きが全く見えない状況が続いてきた。こうした中、「エネルギー」の限定付きで、今なお両国による攻撃は止んでいないが、米国の仲介により、ロシアとウクライナが停戦に向け歩み寄ったのはやはり画期的である。
旧ソ連やその後独立した国々において、エネルギーを掌る省は、石油ガスなどの化石燃料セクターに加え、電力セクターの両方を所掌するケースが多い。攻撃停止とする「エネルギー」の詳細は、3月25日もサウジアラビアで米露間、米ウクライナ間で協議されたが、石油ガスなど関連施設とともに電力インフラの安全確保がロシア側とウクライナ側双方の念頭にあると考えられ、この意味は決して小さくない。25日のサウジアラビアでの協議を受け、米国は黒海の安全航行を確保する停戦についてもロシア、ウクライナと合意したと発表した。
二つ目は、30日間の完全な一時停戦に向けてロシア側が提示している条件の内容だ。このロシア側の条件について、クレムリンサイトは、①ウクライナ軍の動員・再軍備の停止、②ウクライナ軍への外国からの軍事支援やインテリジェンス情報の提供停止を挙げている。
少なくとも②につき、米国は同意することが可能だ。既にトランプ大統領は、2月28日のゼレンスキー大統領との会談決裂後、すべての軍事支援とインテリジェンス情報の提供を一旦停止したことがある。これを梃子として、トランプ大統領はウクライナ側に改めて圧力をかけると思われる。米国の軍事支援の停止を穴埋めができない「欧州」も米国から足並みをそろえた対応を求められるだろう。