2025年3月16日(日)

プーチンのロシア

2025年2月10日

 米国ワシントン1月20日正午――。トランプ氏が米国大統領に就任した。この就任式から約1週間後、筆者はモスクワにて現地の様子を見聞する機会を得た。かねており、トランプ氏はロシア寄りの言動が目立つが、意外にもトランプ大統領返り咲きに際してのロシア市民の反応は冷めたものだった。

ユーラシア経済連盟会議の様子を放映する国営TV。トランプ大統領に最も期待しているのはプーチン大統領なのか(筆者撮影、以下同)

「トランプ政権に期待するか?」

「トランプは単なるショーマンだよ」

 久しぶりに再会したモスクワの知り合いと筆者のやり取りはこんな感じで始まった。もちろん、民主党候補ハリス氏よりもトランプ氏の方が、圧倒的にロシアにとり都合がいいには違いない。だからといって、米露関係が劇的に改善するとは思えないし、ウクライナを巡る取引がすぐに成立する訳でもない。

 民主党であっても共和党であっても、米国が超党派でロシアを「仮想敵国視」するのは変わらない……。モスクワ市井全体を覆うのは、こうした米国に対する「諦めモード」だった。

 実際、2016年の大統領選にトランプ氏が勝利した際、モスクワ市民は一時沸き立ったが、蓋を開けてみれば、米露関係に前向きな動きは何もなかった。外交官の追放合戦が起こり、米国側は一方的に中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、ドイツのメルケル元首相が推進したノルドストリーム・ガスパイプラインや米国議会で制定された対露制裁法(CAATSA)を代表的なものとして、対露制裁は強化された。

 CAATSAについて言及すれば、バイデン前大統領は、退任が目前に迫った今年1月中旬、自身の大統領令に基づくロシア制裁を、CAATSAを根拠とする制裁措置に置き換える「制裁再指定」を行っている。CAATSAは、制裁解除にあたって連邦議会での審査を必要とするため、トランプ大統領の一存で制裁を解除できない。トランプ氏は、自身の第一期政権時に定められた制裁法により、制裁解除というカードを思うように切れなくなっている。

 ロシア外務省傘下のシンクタンクであるロシア国際問題評議会のティモフェーエフ代表は「トランプ氏はロシアにアタッチメント(愛着)というものはない。自身や米国に利益がないとみれば、深く関わることもない」と筆者に説明した。事実、トランプ氏は、ロシアのためではなく、自国の負担を減らすために、ウクライナ支援の縮小や北大西洋条約機構(NATO)加盟国へ国内総生産(GDP)に占める軍事費の割合を5%に引き上げるよう圧力をかけている。

 そして何より、就任後24時間以内に終わらせると豪語したにもかかわらず、軌道修正した6カ月以内どころか、1年も2年も、さらにウクライナでの戦闘が続いてしまえば「トランプ自身も責めを負う戦争」に位置づけが変わってしまうことを恐れている。トランプ氏にとってのロシアとは大要、この程度のものだ……。ロシア社会はこのように見透かしている。


新着記事

»もっと見る