2024年11月21日(木)

エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう

2024年8月20日

 3年目にあるロシア・ウクライナ戦争の終わりが見えない。ウクライナを巡るロシアによる「地政学上の領土紛争」は、ロシアが世界最大のエネルギー国家であり、特に化石燃料輸出国であったため、エネルギーと脱炭素に関する欧米との「地経学的な貿易戦争」へと戦線が拡大した。欧州で澎湃として起きた軍事衝突は、あたかも「地政学」に「地経学」が掛け合わされる「地政学×地経学」の二乗の衝撃となって、今なお世界を揺るがす重大危機として継続中だ。

世界最大のエネルギー国家・ロシアは、世界にその底力を見せつけている(CHINA NEWS SERVICE/GETTYIMAGES)

 欧米諸国は核大国ロシアと直接交戦できないため、ウクライナへ後方から軍事支援するとともに、おびただしい数の経済制裁をロシアに科した。米国の調査会社Castellum.AIによると、その制裁件数は2024年6月時点で1万8472件に及び、イラン向け5155件の3.5倍以上だ。これをプーチン大統領は、西側から開始された「経済の電撃戦」と表現し、世界全体を巻き込む「地経学戦争」へ瞬く間に発展させていった。なぜなら、米ソ冷戦が終わり、今や権威主義の程度がどうであれ、ロシア、中国、中東、グローバルサウス、いずれの国々も、市場経済システムという共通の土俵において、相角逐しているからだ。

 「地経学戦争」により、ロシアはガス輸出のドル箱としていた欧州市場を失いつつある。侵攻前、133.3BCM(10億立方メートル)もの気体のガスをパイプラインで欧州へ輸出していたが、23年は25.7BCMと約8割激減した。ロシアの国営ガス会社ガスプロムは23年12月期、過去最大の赤字決算に沈んでいる。また、米イェール大学マネジメントスクールによると、ロシア市場から撤退、もしくは撤退表明することを余儀なくされた欧米企業は24年7月時点で1000社を超えるとされる。

 長期的に、ロシアにとってダメージが最も大きいのは、AI、量子コンピューター、5G、ハイテク素材など、欧米の先端技術の導入ができなくなってしまったことだろう。ロシアが現在、量産できる半導体は90ナノプロセスにとどまるとされる。

 他方、こうした側面とは裏腹に、ロシア経済は全体として好調だ。23年、ロシアの国内総生産(GDP)成長率はプラス3.6%と予想を上回る回復をみせ、24年1~5月はプラス5%成長と報じられている。さらに今年7月、世界銀行が発表したデータは興味深い。23年、ロシアは購買力平価(PPP)ベース名目GDPで日本を抜き世界4位の位置にあり、一人当たり国民総所得(GNI)は1万4005ドルを超え、静かに高所得国入りしているのだ。


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