2024年8月20日(火)

エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう

2024年8月20日

 今年5月下旬、筆者はモスクワを訪問し、現地情勢を見聞する機会を得たが、市内の生活環境は平穏そのもので、爽やかな初夏のシーズンを屋外で満喫するロシア市民の様子があちこちでみられた。モスクワ市内の至るところで大規模な商業ビルや高層マンションの建設が進み、活気さえ感じられた。

 好調過ぎるように見えるロシア経済の内実は「軍需」が牽引している。ロシア連邦国家統計局によれば、23年、電気機械は前年比56.8%、金属製品は同42.5%、コンピューター・電子機器は同27.4%と伸張しており、戦時経済下で、民間企業は常に人手不足と聞いた。軍需により潤った国民の実質所得は、旺盛な国内消費と民間投資として循環している。さらに、海外に逃避・分散していた富裕層の資金は、ロシア国内へ大規模に還流しており、不動産やレジャーへの投資に向かっている。

 22年こそロシアのGDP成長率はマイナス1.2%となったが、その後の経過をみれば、対ロシア制裁が期待された効果をあげていないのは明らかだ。経済制裁は、いうなれば人工的に作り出された貿易障壁であるが、エネルギーや食糧を自給自足できるロシアのような大国には、経済をガタガタに至らしめる威力はないことが分かってきている。

 また、ベロウソフ前第一副首相(今年5月に国防大臣に就任)、ナビウリナ中銀総裁、シルアノフ財務相といった有能な経済テクノクラートがプロフェッショナリズムを発揮して、資本規制などによる為替の安定、政策金利によるインフレ抑制などを実現している事実も見逃せない。さらには、ソ連崩壊、1998年のデフォルトといった荒波(どん底)を乗り越えてきたロシア市民は、経済環境の変化に極めてタフなメンタルを持っているという特質もある。

対ロシア制裁は「両刃の剣」
欧州経済は停滞へ

 とはいえ、貿易障壁を設けることに端を発する「地経学戦争」に勝者というものは存在しない。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると2022年、世界のGDP成長率は、ウクライナ侵攻前の予測から1.4%、23年は0.7%の縮小を余儀なくされた。そして、この過程で起きていることは、ロシアと欧米の「経済的紐帯の分断」とこれに伴う「貿易フローの再構築」である。例えば、欧州や日本に向かっていたロシア産原油は、ディスカウントされて中国、インド、中東諸国に大量に輸出されており、パイプラインを通じてロシアから欧州大陸へ直送されてきた気体のガスは、米国から欧州に向かう大量の液化天然ガス(LNG)に置換された。しかしながら、市場の裁定に背く貿易フローの分断と再構築は、「両刃の剣」となって、制裁を講じる側にも返り血を浴びせている。

 その最たるものが「欧州経済の停滞」であろう。ウクライナ侵攻直後の22年5月、欧州委員会は、「REPowerEU」計画を公表し、脱ロシアと脱炭素を両立させるグリーン成長戦略を(突貫で)示した。だが、現実はそううまくはいかない。


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