2024年11月22日(金)

エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう

2024年8月20日

日本と日本企業は
どうすべきか

 「地経学戦争」に勝者はいないと前述したが、欧州へ大量のLNGを輸出し、ウクライナ支援で自国の軍需産業が潤う米国の立ち位置はそう悪くない。また、ロシアの貿易は中国頼みとなっているが、中国は漁夫の利を得た格好で、ロシアは中国経済圏に組み込まれつつある。それに比し、資源を海外から輸入し、製造業を主体とする産業構造を有するドイツや韓国、そして疑いなく日本も「地経学戦争」への耐性というものは、そもそも弱い。言われるままに欧米に追随し、コストを伴う脱炭素政策ばかりを優先すれば日本の製造産業に甚大なダメージを与え、産業全体の衰退を招きかねない。

 こうした情勢下において、エネルギーの安定確保と脱炭素の両立に向け、日本および日本企業はどうするべきなのだろうか。3点提言したい。

 まず、エネルギートランジション(脱炭素化への移行)の現実解といえる「ガスLNGの安定確保」に継続して取り組むことだ。LNGの最大輸入国として、そのバリューチェーンを押さえる日本はそれ自体がビジネスとエネルギー安全保障の両面から強みとなっている。ガスは水素・アンモニアといった新エネルギーの原材料にもなる。

 次に、海外で脱炭素ビジネスを展開するにあたっては、再エネとともに、メタンやガス漏れ防止対策、二酸化炭素(CO2)利用の新エネルギー(メタネーションなど)、CO2回収(CCS、DACなど)、メタンMRVといった日本企業が強みを有する「ローカーボンビジネス」に係る技術やノウハウを積極的に売り込むべきだ。

 最後に、グローバルサウスとの連携だ。日本は主要7カ国(G7)の一体性を保ちつつ、具体的なエネルギートランジションに係る取り組みを通じて、石炭火力の依存度の高いアジア各国の声を代弁できる。また、原油やLNG取引で関係の深い中東諸国における脱炭素ビジネスは大きな商機がある。さらにアフリカ各国では、例えば、非電化地域での太陽光発電による分散電源事業をさらに拡大することが可能だ。

 日本のエネルギー自給率は約1割にとどまり、G7の中では最も低く経済協力開発機構(OECD)38カ国中でも37位である。食料自給率も38%(カロリーベース)と決して高くない。こうした中で、「地経学戦争」や脱炭素政策により、知らぬ間に日本ばかりが損をしているという事態は絶対に避けなければならない。そうした意味から、ロシアの「サハリン2」といった日本企業が上流権益やLNG引き取り契約を有する既存のプロジェクトは、死守していく必要がある。日本のLNG調達量全体の約8%に相当し、輸送日数も往復で10日に満たない近傍に立地するという戦略性も有するからだ。

「サハリン2」の上流権益を死守することが日本の国益に直結する(PETER BLAKELY/REDUX/AFLO)

 G7の一員として日本は、対ロシア制裁のフロントにいる。だが、厳しいエネルギー自給状況にある日本は、エネルギー安全保障上、ロシアからの石油やLNG調達については、堂々と自国の事情を説明することも時には必要である。加えて、既存プロジェクトを利用して、ロシア側のさまざまなレイヤー(連邦政府レベル、省庁、国営企業など)で、交渉できるチャネルを常に確保し、自国の国益に必要なものは他国に理解を求めていく「したたかさ」と「胆力」が求められている。

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Wedge 2024年9月号より
エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう
エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう

ロシア・ウクライナ戦争の長期化により、世界的潮流であった「脱炭素」の推進に〝黄信号〟が灯り始めている。 各国ともに自国のエネルギー確保に奔走しているが、なかでも脱炭素社会の実現を主導して進めようとしていた欧州は、侵攻後、世界中から液化天然ガス(LNG)をかき集め、それによりガス・LNGの価格は一気に高騰した。 影響を受けたのは、化石燃料依存度の高いグローバルサウスなどの国々である。「なりふり構わず」の姿勢から、欧州が掲げた脱炭素という〝美しい理念〟とはいったい何だったのか、疑問に感じる読者も多いだろう。 そうした状況にあっても、資源小国日本の危機感は薄く、国のエネルギー政策は迷走を続けている――


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