トランプ政権の発足以後、米欧間の信頼関係が大きく揺らいでいる。トランプ大統領はウクライナへの大規模支援に否定的な立場を示すなど、支援の継続を望む欧州との意見対立が表面化した。この先、米国が北大西洋条約機構(NATO)、そして米欧同盟のリーダーとしての役割を果たしていくのかは不透明である。
これに対し、フランスのマクロン大統領は、欧州は米国を安全保障でもはや頼れず、独自の防衛強化を訴えている。25年3月には、フランスの核抑止力を欧州全体に広げる構想を表明した。そうした流れの中で、フランスの軍事産業への注目も集まっている。
武器輸出大国としてのフランス
フランスは、世界有数の武器輸出大国である。武器輸出はド・ゴール政権(59年~69年)時より、自主独立外交を支えることを目標に、国家戦略として推進されてきた。核兵器と通常兵器を自ら賄える自給自足体制を構築してきた一方、軍事産業を一国の市場規模では維持できないため、積極的に武器輸出している。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、フランスの武器輸出額の世界シェアは15年~19年の期間、米国やロシアに次ぐ、第3位(全体の8.6%)であったが、20年~24年にはロシアを抜き、第2位(9.6%)となった。
武器輸出は、政治経済面でも重要である。武器輸出の経済効果について、フランス軍事省および米マッキンゼー・アンド・カンパニー社が実施した14年の報告書では、輸出により約4万人(防衛産業従事者の25%相当)の雇用が創出され、貿易赤字(対国内総生産〈GDP〉比)が8~12ポイント削減されたと試算された。
また防衛産業が盛んな地域には、オランド前大統領(12年~17年)やマクロン現大統領(17年~)が大統領選挙時に得票率を伸ばしたイル・ド・フランス地域圏(防衛産業収入全体の約43%)や南西部ヌーヴェル・アキテーヌ地域圏(約13%)、両政権で国防相と外相を歴任したル・ドリアン氏の出身地域である北西部ブルターニュ地域圏(約6%)がある。両政権は積極的な武器輸出政策を通じて、支持基盤地域にある防衛産業を活性化させようと試みたと言える。