中東産油国への大口輸出
フランスは武器輸出市場で米国やロシアなどと競合しながら、販路の確保に努めている。特に、資源輸出で潤沢な資金を得る中東産油国は、フランスの重要な顧客である。65年~85年まではイラクが世界最大の仏製武器購入国であり、90年代以降はサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)がフランスの軍事産業を支えている。
中東諸国への武器輸出に関する注目点は、13~15年に武器発注額が急増したことである。武器発注額は11年の約12億ユーロから、オランド政権期の15年には約130億ユーロまで増加した。この背景には、湾岸諸国・米国関係の冷え込みがあったと考えられる。
当時、湾岸諸国がオバマ政権に不信感を抱いた理由として、オバマ政権がエジプトのムルシー政権に対する軍事クーデタを批判したこと、シリアのアサド政権による化学兵器使用の疑惑が生じたにもかかわらず、シリアへの軍事作戦を断念したこと、そしてイランとの関係改善を進めていたことなどが挙げられる。
こうした米国のシリア・イランに対する弱腰の姿勢や、「イスラーム国」の台頭に伴うテロ対策の必要性が、フランスの中東向け武器輸出に追い風となった。フランスは、地域紛争への介入や過激派掃討作戦を行うサウジアラビアやUAE、エジプトへの武器輸出を推し進めた。一方の中東諸国も、米国と異なり、武器輸出に人権遵守など政治的条件を厳しく課さないフランスに期待を寄せた。
輸出品は、ルクレール戦車やラファイエット・フリゲート艦、ミストラル級強襲揚陸艦、カラカル・ヘリコプター、ミラージュ及びラファール両戦闘機といった陸海空戦力に加え、空中発射巡航ミサイル「SCALP-EG」や軍事衛星通信システムなど多岐にわたる。
とりわけ、ラファール戦闘機の発注数が増加傾向にある。カタールが15年と17年に計36機を、エジプトが15年と21年に計54機を発注した。そして22年、UAEによる80機のラファール戦闘機購入が正式に取り決められ、その購入額は一国の発注額としては最大規模の約160億ユーロにのぼった。
UAEによるラファール戦闘機の大型契約は、フランスがUAEとの軍事関係を長年発展させてきた成果である。09年にUAEのアブダビ首長国に設置された仏軍基地は、フランスにとって海外5カ所目の拠点となり、旧植民地(ガボン、コートジボワール、ジブチ、セネガル)以外では初となる。約700人の兵士が常駐する同基地を拠点にして、アブダビ駐留フランス軍(FFEAU)は、ペルシャ湾周辺の仏トタルエナジーズ社の資源権益を守るとともに、インド太平洋にあるフランス領の防衛に迅速に駆けつけることが可能となる。