筆者は精神科医であるとともに、産業医としても活動し、地域の産業保健総合支援センターにもかかわっている。そのせいか、企業の人事総務担当者からメンタル系休職に関する相談を受けることが多い。担当者が不信感を抱いているのが、メンタルクリニックからの謎の診断書である。
(wombatzaa/gettyimages)
メンタルクリニック発、一行診断書
ある時、突然、「3ヵ月の休職を要する」とだけ書かれた診断書が出てくる。その日から社員は会社に来なくなる。その3ヵ月後、突然、「復職可能」とだけ書かれた診断書が出てくる。どちらも一行だけである。
会社側からすれば、毎日出勤していた社員が、今日から休職。しかも、その期間も3日とか、3週間ではなく、3ヵ月もの長期である。なぜこんなにも長いのか。
それに加えて、病状についての説明も、今後の見通しも書かれていない。何が原因でこうなったのかも知らされない。会社としてどう対応すればいいのかわからない。
3ヵ月後の「復職可能」診断書も、ミステリアスである。休職期間中に社員が何をしていたのか、どういう治療を受けていたのかもわからない。
久々に現れた社員は、表情は乏しく、動作も緩慢で、口調も重く、しばらく見ない間にすっかり病人らしくなっている。「これで本当に復職可能なのか?」、そう思えてしまう。
ある総務・人事担当者は、率直に言っていた。「突然、我が子をカルト宗教に奪われた親のような心境だ」と。この人の場合、若い社員が働きやすい会社にするにはどうすればいいかを真剣に考えていたので、変わり果てた社員をみて、こういう言葉が出てきたのであろう。
