2024年12月22日(日)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年9月4日

 日本のサービス業や小売業の業界では、長年カスタマーハラスメント(カスハラ)に苦しんできた。背景には、消費者は代金を払う存在だから、サービス提供者より優位に立って良いという理解が暗黙の合意としてあった。その優位性を乱用して言葉の暴力を振り回す消費者に対して、現場はひたすら耐えるしかなかったのである。

 こうした傾向が改善に向かっているのは好ましい。そんな中で、横暴な消費者から従業員を守るのは企業の責務だという姿勢が広まっているのも良いことだと思う。

日本の接客は消費者においても店側においても課題が山積だ(Image Source/gettyimages)

 日本の場合は「世評を落とす」名誉毀損は罰せられるが、一対一の暴言が精神的な傷害だという点では、法整備が十分ではない。この点を改善して、いわゆるカスハラ行為については、それ自体を刑事犯罪とするだけでなく、必要な民事仲裁によって被害者を救済することも必要であると思う。

 けれども、犯罪とも言える極端な事例を追放するだけでは十分ではない。人手不足の中、ともすれば感情労働とも言われる消費者向け産業の最前線において、職場環境を改善し、サービス提供者の心身の健康を守るためには、消費者全体が変わらなくてはならないと考える。

「客は神様」ではない

 まず消費者の側が、店員などに対してもっと対等なコミュニケーションを取るべきだ。現在でも、年下の店員に対しては「だ、である」口調で横柄に接する年長の消費者を見かけるが、論外だと思う。

 常連だろうが、上客であろうが関係はない。売買という商取引は対等性が確保されて成り立つ厳格なものである。そこに上下関係、つまり権力が行使されるようでは取引の公正は担保されないし、店員のメンタル面における健康も保障できない。

 次に店側、あるいはサービス提供者の側が提示しているルールには消費者は従うべきだ。例えばキャッシュレス取引にしているのには理由がある。過剰包装を配しているのにも理由がある。

 もちろん、店の側では誤解のないように明確な表示や説明は必要であろう。だが、消費者の側としては、そのルールが気に入らなければ別の店へ行けば良いだけの話であり、そこで文句を言うことは慎むべきだ。何よりも、現場には大きな裁量権はないことはすぐに分かるはずであり、裁量権のない現場をストレス発散の対象にすることの犯罪性・悪質性についてもっと厳しい観点が必要とも思える。

 非常に気になるのが、研修中など初心者の店員に対する心ない対応だ。暴言の対象とするのは論外だが、SNSや消費者サイトの口コミなどで、匿名をいいことに慣れないサービスに対してバッシングを繰り返すのはやはり問題だ。


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