7月31日に日本銀行の植田和男総裁が利上げを表明。これを受けて東京市場の株価は乱高下したが、そのショックは他のアジア市場だけでなくニューヨーク市場にも波及した。
まず、日銀の政策意図には、物価上昇と闘う姿勢が見える。行き過ぎた円安の結果、エネルギーや原材料コストが高騰。これを放置すると、秋以降の国民生活に多大な影響が出ることが懸念されていたからだ。
その一方で、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のジェロム・パウエル議長の政策金利の舵取りにも物価問題が大きく影響している。つまりコロナ禍後に顕著となっており、今でも大統領選の争点の一つとされている、「行き過ぎたインフレ」を退治したいという姿勢を中心に据えていると見ていいだろう。
過熱する景気をソフトに冷却したい米国
非常に単純化するのであれば、今回の株の乱高下は、日米の中央銀行による物価との闘いが招いた副産物という見方もできる。では、日米が直面している物価問題には共通点があるのかというと、確かにウクライナや中東の危機による原油高という問題は共通だ。だが、それ以外の点は全く異なると言える。
簡単に言えば、日銀の植田総裁は利上げによって物価と対決しつつあるのに対して、連銀のパウエル議長は利下げを志向しつつ、それを遅らせることで物価と対決しようとしているからだ。
さらに言えば、日本の場合は円安と資源高による物価上昇の痛みについては、さらなる悪化を何としても阻止する必要があるが、賃金上昇を伴ったデフレ脱却については、依然として前進する勢いを維持することが必要だ。つまり、内需の牽引する景気はできるだけ好調に持っていきつつ、行き過ぎた円安を是正するという難しさを抱えている。
一方で、米国の場合はコロナ禍明けのインフレは極めて激しい。外食や多くの食料品などでは3割から5割、いや体感では7割近い値上げが定着している。
このため、若者や年金生活者の多くは、実質的な購買力を奪われた形であり不満が積み上がっている。要因としては資源高による製造コスト、輸送コストの値上がりに加えて、最低賃金アップと人手不足による人件費高騰が後押ししている。