さらに米国のインフレを激化させている要因は、止まらない景気の加熱だ。連銀はここにメスを入れなくては、物価の沈静化は実現できないとしている。
もちろん、景気を冷やして大不況を招いては元も子もない。けれども、ブレーキの掛かる気配がある中でも、金利カットをギリギリの部分で渋っているのは、過熱感をソフトに冷却したいからだ。
米国の場合はここ数年の価格上昇が余りに大きかったために、消費者の意識が追いついておらず不満や怒りが溜まっている。一方で現実として原油高と人件費アップは簡単に元に戻せない。
そんな中で、連銀の舵取りは困難を極めている。今回の株安も、東京市場が大きく戻した一方で、ニューヨーク市場の警戒感は根深いものがある。
表面ではAI相場のバブルが飛んだという解説がされているが、核心の部分にあるのは、連銀の志向している「景気のソフトランディング」策そのものだと言える。パウエル議長は明言していないが、多少の副作用があっても物価を沈静化したいのかもしれない。
米マクドナルド「5ドルセット」の背景
この問題は、マクドナルド社が日米それぞれの市場で展開している価格戦略の違いに良く現れていると言える。
ハンバーガーチェーンというのは、米国の場合にインフレが特に激しく及んでいる産業である。具体的には都市部の最低賃金アップなど、時給の上昇の影響が大きい。
コロナ禍以前にも、「シェイク・シャック」や「ファイブ・ガイズ」といった「バーガーの高級化」が起きていたが、その裏には人件費の上昇があった。つまり付加価値を高めて人件費を吸収する必要があったのである。
その結果として、ニューヨークの場合、マンハッタン島の中にブロック毎にあったマクドナルドはどんどん減っていた。コロナ禍後には、原油高、材料高と景気の加熱が追い打ちをかけて、そのマクドナルドも値上げを余儀なくされた。郊外店でも例えばビッグマックのセットが18ドルなどという「プレミアム価格」となるに及んで、消費者の怒りは頂点に達してブランド価値の毀損が危ぶまれるに至った。
昨今、話題となっている「5ドルセット」というのは、こうした背景から期間限定で導入されたものだ。5ドルでバーガーとチキンナゲット、ポテトにドリンクというのは、全くの持ち出しでありフランチャイズ各店にも負担は大きい。にもかかわらず同社が強行したのは「庶民の味」というブランドを守るためである。
この「5ドルセール」の期間が終了した後に、どのように利益の出る価格設定に持っていくのか、「1ドルアイスコーヒー」など既に試行錯誤は始まっているが、本部も各フランチャイズも非常に難しいところだ。だが、同社はそこまで追い詰められていたとも言える。そこまでしてブランドを守ろうとする同社の努力は、副作用覚悟で物価と闘うパウエル連銀の姿勢に重なって見える。