2024年12月24日(火)

#財政危機と闘います

2024年11月22日

 第50回衆議院議員総選挙以降、メディアで「103万円の壁」問題が取り上げられない日はないと言っても過言ではない。厚生労働省が2025年度の年金法改正を睨み時間をかけて準備してきた保険料負担を避けるため働く時間を抑制する「106万円の壁」撤廃の打ち出しとたまたま時期が重なったこともあり、「103万円の壁」引き上げが「手取りを増やす」のに対し、「106万円の壁」撤廃が「手取りを減らす」ことになると、国民からは大きな批判が出ている。しかも政府からは「103万円の壁」を国民民主党の主張の通り178万円にまで引き上げるとすれば、高所得層に有利で不公平であるとか、財源が約7兆6000億円不足すると、メディアや地方自治体を使って不安を煽る戦略を取ったため、「壁」を巡る議論が加熱している。

年収にまつわるさまざまな「壁」が議論されている(takasuu/gettyimages)

 ただし、一口に「103万円の壁」「106万円の壁」と言っても、それぞれの「壁」が持っている意味合いや、それぞれの「壁」に対する政党の賛否が異なっているため、議論が混乱している印象が拭えない。

 まず本記事では「103万円の壁」問題を整理してみたい。

「103万円の壁」とはなにか

 「103万円の壁」とは、「所得税が課税される年収」のことである。年収が基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計額103万円を超えると、所得税(+復興特別所得税)が課されることになるので、本人の手取りが減ってしまう。さらに、税制上、親や配偶者の扶養から外れるため、親や配偶者などの所得税や住民税の負担が増えることになる。

 つまり、103万円を1円でも超えてしまうと、本人や親、配偶者の税負担が増え、かえって手取り収入が減ってしまうことから一般的に「壁」と呼ばれている。

 夫などの扶養に入っているパートの主婦に適用される配偶者控除に関しては、1987年に年収103万円を超えても即座に配偶者の控除を無くすのではなく、段階的に減らすという仕組みである「配偶者特別控除」という制度が導入された。この配偶者特別控除は、2018年からは、150万円にまで枠が引き上げられたため、配偶者の年収が103万円を超えて増えたとしても、世帯の手取りの上がり方がゆるやかになりはするものの減ることはなくなり、103万円の壁は税制上は解消され、存在しなくなった。

 しかし、現実には、なぜかパートで働く人の間で「103万円の壁」は「心理的な壁」として残り続けることとなった。その結果、パートで働く人に支えられている業界などでは就業時間調整を実施する人が多く、人手不足の一因になっているとの指摘もある。

 さらに、問題を複雑にしているのは、夫などの会社において、独自に支給される配偶者手当の支給基準を「年収103万円」とされている場合もあることで、こうした会社独自の配偶者手当の支給基準の存在が「103万円の壁」として存在し続ける要因となっている点があることだ。


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