減税と関税政策はトランプ政権の最も重大なミッションの一つであるが、その政策を主導する財務長官にはスコット・ベッセント(62歳)が就任した。

ベッセントはマクロヘッジファンド運営会社キー・スクエア・グループ(Key Square Group)の創業者として知られる投資家だ。巨額の取引を巧みに操ることから、ウォール街では「静かな殺し屋(silent killer)」という異名を持ち、恐れられていた。
40年にわたってベッセントと仕事をした伝説の元ファンドマネジャーのスタンリー・ドラッケンミラーは「彼は、政治経験は全くないが、非常に尊敬されているファンドマネジャーだ。アカデミックの世界にも精通しており、IQとEQを兼ね備えた稀有な人物だ」と話す。EQ(emotional quotient)とは、感情の把握・制御能力を示す「心の知能指数」である。イーロン・マスクのように、IQ(知能指数)が頗る高い人は他人の感情を理解することができないことが多いとされ、ベッセントはIQとEQの両方が備わっていると絶賛している。
アカデミックの面では、2006年から11年まで、イエール大学で経済史の非常勤教授を務めた。慈善家としても知られ、母校イエール大学にベッセント図書館を寄贈している。
ジム・ロジャーズに学び投資の道へ
生まれはサウスカロライナ州コンウェイ。父親は不動産投資家であり、多数のSF作品をコレクションしていた。ベッセントは子どもの頃、夜空の星を見ながら、他の惑星に地球と異なるものがある可能性について、よく話を聞かされていたという。父親の不動産投資はジェットコースターのように浮き沈みが激しく、200年前から受け継がれてきた家具が没収されるのを目の当たりにしたこともある。その経験から、ベッセントはリスクマネジメントに関心を持った。
イエール大学では政治学を専攻したが、卒業直後に三大投資家の一人として有名なジム・ロジャーズの下でサマー・インターンとして働いた。ロジャーズはこう回顧する。
「確か1984年のことだが、イエール大学にインターン募集を出し、何人かの候補者から面接で、ベッセントを選んだ。彼はファイナンスについては何も知らなかったが、頭の回転が早く、やる気満々で学ぶことに熱心だった。大学のクラスアンケートで、彼が『将来最も成功しそうにない人物』に選ばれたのは、忘れられないジョークだ。彼は住むところがなかったので、いつもオフィスを兼ねた私のアパートのソファーベッドで寝泊まりをしていたね」
ロジャーズによると、ベッセントは最初ジャーナリストになりたかったそうだが、ファイナンスの基礎をあっという間に学び、投資の道に進んだという。
ロジャーズの下で投資について基本的なことを学んだ後、かつてクォンタム・ファンドをロジャーズとの共同で設立したパートナーのジョージ・ソロスが経営するソロス・ファンド・マネジメントで働き始めた。2000年にそこを離れて自分のファンドを立ち上げたが、05年にソロスの会社に復帰。15年にキー・スクエア・グループを立ち上げた。