日銀を打ち負かした男
13年には「アベノミクス」の円安により巨利を得たことでも有名だ。ベッセントはジョージ・ソロスの紹介でジャーナリストの船橋洋一氏や安倍晋三元首相の経済政策アドバイザーを務めた浜田宏一氏からアベノミクスの詳細について説明を受け、千載一遇の投資の機会であると判断したと言われている。そのとき付けられた異名が「日銀を打ち負かした男」であった。
日米を往復する間に、ベッセントは日本で数々の友人に恵まれたと明かしている。浜田氏の他に、コロンビア大学の伊藤隆敏教授や、安倍氏と懇意だった三井住友銀行元副頭取の高橋精一郎氏、元金融庁長官の森信親氏とも昵懇の関係になったというから、日本とのパイプは深い。
ベッセントは、規制緩和と財政出動、金融緩和を組み合わせた政策である、アベノミクスの「3本の矢」に倣い、ベッセント版「3本の矢」をトランプにアドバイスしている。それは「財政赤字を実質国内総生産(GDP)比3%まで削減する」「規制緩和で成長率を3%に押し上げる」「原油を日量300万バレル増産する」の3本の矢である。
トランプは昨年11月22日、自身が運営するトゥルース・ソーシャルで「スコットは、世界有数の国際投資家、地政学・経済戦略家として広く尊敬され……〈アメリカ・ファースト〉の推進者であり、米国の競争力を高め、不公平な貿易不均衡を是正する私の政策を支持する」との見解を表明している。
また、ベッセントは関税率の段階引き上げ論者である。トランプの高関税政策についても賛同し、カナダやメキシコへの関税は「交渉の道具」であり、対中関税の目的は「不公正な貿易慣行の是正」であると明言している。関税の引き上げが高インフレにつながるとの批判に対しては「最適関税理論によると、報道で飛び交う10%という一律関税の数字を使うなら、伝統的に通貨は4%高くなる」と反論している。
なぜ財務長官がウクライナに?
ウクライナ戦争終結についても前のめりだ。2月12日にはウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。トランプ政権高官が同国を訪れるのは初めてである。国務長官ではなく、なぜ財務長官なのか。トランプの「力による平和」アプローチの一環として、ウクライナに埋蔵されているレアアース(希土類)の権益と引き換えに、ウクライナに安全保障を提供するという交渉のためだった。
ベッセントは2月23日『フィナンシャル・タイムズオンライン』の論説で「トランプ大統領の革新的なアプローチは、生産的な国際パートナーシップの新しいモデルを示している」と主張した。
トランプの「取引的なアプローチ(transactional approach)」をベッセントは全面的に支持しているので、日本に対する関税の交渉の場面でも同じようなことが起こるだろう。だから、常に〈引き換え〉になるものを準備しておかなければならない。
