選挙における平均投票率86%を誇るデンマーク。同国はインターネットの普及率が2023年時点で98・78%に上る「デジタル先進国」でもある。デンマークの民主主義はデジタル化に伴う負の影響を受けているのか。

デンマーク・ ロスキレ大学 准教授
京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学博士号取得。05年より北欧(スウェーデン、デンマーク)在住。北欧研究所代表、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートのエグゼクティブアドバイザーなどを兼務。
デンマーク在住16年のロスキレ大学安岡美佳准教授に話を聞いた。
編集部(以下、─)デンマークの選挙では、デジタルはどう活用されているのか。
安岡 基本的に選挙活動はフィジカルとデジタルのハイブリッドだ。
選挙期間中に各地で開催される候補者と有権者による公開討論会のような「議論」を必要とする活動についてはフィジカルで行われているものが多い。こうした討論会での論点や視点を有権者が得るために活用されているのがデジタルツールだ。そのため、各政党による主張や公約のまとめや、メディアによる比較、分析など、有権者への情報開示ツールとしての活用が中心である。
デンマークでも若者世代を中心にInstagramやTikTokなどのSNSが広く利用されているが、日本で見られる〝炎上〟はあまり見られない。もちろん、発言の一部のみを掲載した「切り抜き動画」が出回ったり、政策自体に関係の無い「スキャンダル」が流布されたりすることもあるが、情報を鵜吞みにして惑わされるということは少ない印象だ。
──そういったリテラシーはどのように培われているのか。
安岡 幼少期からの教育の影響がポジティブに働いている。デンマークでは1960年代から70年代にかけて、それまで行われていた教師から生徒への一方通行の教育や、暗記中心の学習方法に疑問が呈され、学習者が主体となる新しい学習方法に転換していった。
その際に重視された三つの柱がある。一つ目はクリティカル(批判的)であることだ。つまり、言われたことを素直に信じるのではなく、「本当なのか?」と自ら情報にあたったり、他の見方もあるのではないかを考えるということ。
二つ目はリフレクションによって自分の意見を持つことだ。日本では教科書を丸暗記すれば100点を取れる科目もあるが、デンマークはそうではない。知識はあくまで「参照」するものであり、それを得て自分がどういうポジションで、どのように考え、どういった行動をするのか、といった深掘りが求められる。
三つ目は出典を明確にすることだ。誰の主張なのか、それは一次情報なのか二次情報なのかを確認することが徹底され、「自分の主張」と「引用した他者の意見」をきちんと分けて考えるということである。
小学生の頃からこうした訓練がされているおかげで、日本人が「玄関で靴を脱いだらそろえる」というある種のお作法のような感覚で、デンマーク人たちは日常会話のレベルからこれらを実践している。
他国の人からみればデンマーク人は少し〝理屈っぽい〟と言われるかもしれないが、こうした考え方が社会に根付いていることが、デジタル社会において、ネガティブな情報に接したときに安易に引っ張られない要因になっている。