一人ひとりに根付いた
デンマークの民主主義
──日本では政治にまつわるSNS上の議論は、攻撃的になりがちである。
安岡 デンマークでは、政治に関する議論や会話は対面で行われることがほとんどだが、オンラインの議論の場合でも、発言者が専門家であったり、一般の人であっても自らの職業や立場などのバックグラウンドを明示していることが多く、建設的な議論をしている印象だ。これは、先述の考え方が、オンライン上でも機能しているからだといえる。
もっとも、「沈黙は金」という価値観を持つ日本人にとって、匿名性のあるSNSは、対面では言えないことを言える場になっていると考えられる。一方、デンマークでは「本音と建前がない」と言われるほどに、常にオープンに会話をし、自分の意見をさらけ出すことが当たり前になっている。もちろん一定数、過激な発言をする人は存在するが、「SNSだから」ということはない。
また、デンマークでは他者と異なる意見を言うことによって、仲間外れにされるなどの不利益を被ることはほとんどない。むしろ、自分をさらけ出すことで人間関係が良好になるという考え方すらある。
──日本はデンマークから何を学べるか。
安岡 デンマークでは日本よりも政治がとても身近に感じられる。政治家は首相であっても、自らの言葉で国民に語りかけ、間違えれば謝罪をする。国民も自らの意見によって「何かが変わる」という成功体験を幼い頃から積んでいるため、意見を言うことが正しいという考えが浸透している。
また、デンマークの人々は国に誇りを持ち、シビック・プライド(Civic Pride)も高いため、積極的に政治に関わり、自分の国をどうしたいかという議論を交わしている。政治家も右派であれ、左派であれ、政権交代があっても、多くの国民にかかわりの大きいコアな部分の政策は基本的に変わらない。
デンマークはデジタル先進国だと言われるが、決してデジタルに捉われることなく、過去から培われてきた時間をかけたプロセスが大切にされている。根底にあるこうした考え方こそがデンマークの民主主義を支えているといえるだろう。
ただ、デンマークを含め、北欧は往々にして極端なところがあり、時には自分の意見がない場合でも「何かを言わなければ」というストレスを感じることもある。日本人は言われたことを守る控えめな性格であることが多く、議論には向かないという意見もある。確かにそれは日本人の弱点かもしれないが、それを克服するために、ただ単にデンマークのやり方を真似することが正解ではないはずだ。
だからこそ、今、日本の政治家やリーダーには、日本人の国民性や過去の歴史・文化などを踏まえ、日本人の強みが生かされる「枠組み」をつくっていくことが求められているのではないか。