個人のマイナンバーに別人の情報が紐づけられる事象が多発し、混乱が広がっている。具体的には、公金受取口座や健康保険・年金情報の紐づけ間違い、マイナンバーカードを使った証明書のコンビニ発行サービスでの不具合などが相次ぎ、その原因は自治体や健康保険組合職員の手作業による人為的なミスやシステムの設計ミスなどにあるとされている。
岸田文雄首相は6月、「マイナンバー情報総点検本部」を設置し、関連する全てのデータの点検を今秋までに完了するように指示した。日本政府は現行の健康保険証を2024年の秋に廃止し、原則としてマイナンバーカードと一体にした「マイナ保険証」に移行する方針を決定しているが、トラブルが後を絶たないことで、与野党から延期の検討を求める声が上がっている(7月28日現在)。
日本のマイナンバー制度は16年に開始した。総務省によると、7月23日時点のマイナンバーカードの交付率は74.5%だが、その数字が急速に伸び始めたのは新型コロナウイルスの感染が拡大した20年以降である。
日本の報道を客観的に見ていると、近年、マイナンバーの利用拡大やカードの普及自体が目的化し、グランドデザインの不在もさることながら、国民にそのメリットが伝わらないまま早急にデジタル化を進めすぎている印象を受ける。
私の住むデンマークは、国連が発表する最新の世界電子政府ランキングで1位であり、実生活の中でデジタル化の恩恵を受けていると感じる。読者の中には、デンマークは東京都の人口にも満たない約580万人の小国であるからこそデジタル化が成し遂げられたと考える人もいるだろう。事実、そうした要因もあるかもしれないが、全ての小国がデジタル化に成功しているわけではない。国の大小にかかわらず電子政府システムは複雑であり、国のサイズ以外の要因にも目を向ける必要がある。本稿では昨今のマイナンバーの混乱を含む日本のデジタル化の問題点を二つ挙げ、デンマークのデジタル国家への歩みから得られる示唆を提示したい。