2024年12月22日(日)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2023年7月18日

 前回の本コラムへの寄稿『「骨太の方針」資産運用立国が孕む懸念点』では、家計金融資産を貯蓄から投資へ向かわせる過程で懸念される円安リスクについて議論した。これ以外にも「骨太の方針」には議論すべき論点が多くあった。

(segawa7/gettyimages)

 とりわけ為替市場で円安地合いが定着している状況から注目される論点としては対内直接投資残高に関して期限と水準の目標が設定されたことは捨て置けない。実はこの点も過去の本コラムへの寄稿『「資本の鎖国」続く日本 外資系企業の投資は北朝鮮以下』で円安と関連させて掘り下げた経緯があるが、改めて論点整理をしてみたい。

本腰となる日本政府

 今回、「骨太の方針」では具体的に以下のような記述がみられた:

 海外からヒト、モノ、カネ、アイデアを積極的に呼び込むことで我が国全体の投資を拡大させ、イノベーション力を高め、我が国の更なる経済成長につなげていくことが重要である。対内直接投資残高を2030年に100兆円とする目標の早期実現を目指し、半導体等の戦略分野への投資促進<中略>我が国経済の持続的成長や地域経済の活性化につなげる

 方針の公表以前から日本政府が対内直接投資を盛り上げようと躍起になっていることは既報の通りである。例えば今年5月18日、岸田文雄首相が海外の大手半導体メーカーや研究機関計7社の経営幹部らと首相官邸で面会したことが大々的に報じられている。

 具体的には、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)はもちろん、韓国のサムスン電子、米半導体大手のマイクロン・テクノロジーや、米IBM、インテル、アプライドマテリアルズ、ベルギーの研究機関imec(アイメック)の首脳らと面会している。この際、「政府を挙げて対日直接投資のさらなる拡大、半導体産業への支援に取り組みたい」と述べ、日本への投資を促す方針を喧伝している。

 対内直接投資の経済効果は想像しやすいものだ。熊本県菊陽町におけるTSMC工場の誘致がそれを実証している。

 7月3日公表された2023年1月1日時点の路線価ではTSMCが工場建設を進める熊本県菊陽町の一部が前年比+19.0%、九州7県全体では+2.2%上昇したことが話題を集めた。日本企業の国内回帰に期待できない以上、外資系企業の対日投資が景気を押し上げる経路は期待すべきものである。


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