2023年1月30日(月)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2022年12月23日

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唐鎌大輔 (からかま・だいすけ)

みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

2004年慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局を経て、08年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)。著書に『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)など。(記事はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

 2022年は円安見通しを語ることは元より、「では円安を活かす手はないのか」といったテーマで企業や官僚、政治家の方々と議論させて頂く機会に多く恵まれた。「通貨安を国として活かす」と言った場合、真っ先に思い浮かぶものを順に挙げると①財の輸出を増やす、②サービスの輸出を増やす、③対内直接投資を増やすといった論点が考えられる。

(metamorworks/gettyimages)

 このうち①は殆ど決着がついた議論である。2013年以降、アベノミクスと称したリフレ政策の一貫として黒田東彦新総裁の下、日銀は量的・質的金融緩和を展開、ドル/円相場は最大で50%近く上昇した。しかし、その結果として輸出数量は増えなかったし、貿易黒字も当然、戻らなかった。

 現在同様、製造業の国内回帰を期待する論調もあったが現実は周知の通りである。それどころか円安傾向にもかかわらず対外直接投資は加速したのだから、「円安で国内回帰する」どころか「円安でも海外脱出する」というのが企業心理として根強かったことが分かる(図表①)。

図表① 写真を拡大

 その代わりにアベノミクスというフレーズが持て囃された13年以降、日本におけるサービス収支、厳密には旅行収支は明確な転機を迎えた。14年まで日本の旅行収支は赤字が当たり前だったが、15年以降は約+1.1兆円の黒字へ転嫁し、19年には約+2.7兆円と4年で3倍弱の黒字額に膨らんでいる。

 パンデミックなかりせば、20年は東京五輪の下でさらなる黒字を稼ぎ出していたはずだ。その後、パンデミックにより旅行収支黒字は消滅し、今年10月に水際対策緩和が世界に遅れて決断されるまでは低空飛行が続いてきた。旅行収支は今後、実質実効為替相場(REER)における「半世紀ぶりの円安」を追い風に増勢基調に入るだろう。

 だが、22年、岸田文雄政権下で継続された水際対策は科学的根拠に乏しいと批判されるものであり、日本の閉鎖性を世界にアピールした感がある。今でも「日本に行くとマスク着用は必須」という特殊な行動様式が世界的に知られる状況にある。

 率直に言って、旅行収支黒字は貿易赤字の穴埋めにはなり得ず、極力、障害となるものは政府が取り払う努力をすべきと筆者は考えるが、岸田政権において、その優先度は決して高くないように見受けられる。現状、インバウンドの復活が持て囃されるが、本当に期待すべきは例年4~7月の実績であり、復活の真価はそこまで待つ必要があろう。


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