2025年4月22日(火)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2025年4月15日

 闘病の友や家族や友人が免疫力を与えてくれる。

 僕がステージ4の大腸がんと診断された瞬間、まるで天から突きつけられた挑戦状のような出来事だった。あの瞬間の衝撃は、まさにロシアンルーレットの引き金を自ら引いたかのような感覚で、言葉にならない恐怖が押し寄せてきた。しかし、そこで立ち止まるわけにはいかない。僕は戦うしかないことを悟ったのは家族の後押しだった。

(Boonyachoat/gettyimages)

温かさに包まれる日々

 子どもの頃に母親から「北風と太陽」という寓話を聞かされて育った。ふとそんなイソップ童話が頭をよぎることがある。なぜか昔の幼い日々が夢の中に出てくる。家族が居なければ孤独感との戦いである。そんな単純なことが分からなかった。

 恥ずかしい話だがこの戦いの中で、僕は人の温かさを再認識することとなった。家族、友人、元同僚——皆が僕を心配し、手を差し伸べてくれる。「何かあったら言ってくれ」「俺にできることはないか?」と、そんな言葉を何度もかけてもらい、孤独ではないことを実感した。がんという恐ろしい経験は時に人と人の絆を再確認させる試練でもある。

 12年前に前立腺がんに罹患したときには悩みはしたが、重粒子線治療で先端治療の恩恵を受けたので、今回の末期がんとは比較にならないほど恵まれていた。会社の仕事が忙しくて孤独感を感じる暇さえなかった。

 今回のステージ4は主治医からは寛解はないと言われた。つまり死ぬまでがんと共生しなければならないのだ。

 その意味で家族からのサポートは計り知れない。

 家族は第2のがん患者と呼ばれるのは家内や家族が親身になっての献身的に心配してくれるからだ。孫たちから僕にきた手紙は、温かな励ましに満ちていた。留学中の孫たちがニューヨークやロンドンから温かい励ましのメールが届く。

 彼らの存在が、僕にとっての支えであり、心の安らぎとなる。弱音を吐ける場所があることは、何よりの慰めだ。家内も、さりげなく優しさを伝えてくれる。妻の存在は、僕にとっての大きな支えであり、心の安らぎをもたらしてくれた。いつもは夫婦喧嘩ばかりしていたが闘病生活に入ってからはかつてないほどに夫婦仲が良くなった。

 僕の人生では初めての経験である。家内との関係は言わば同志愛である。惚れた腫れたは当座の内というが恋愛が夫婦愛に成長し、やがて同志愛に変化してきたと感じている。

 友人知人も同様に、温かい言葉や励ましを送ってくれる。特に、がん体験がある友人からのSNSでの情報共有は、非常にありがたい。経験者の言葉には重みがあり、彼らからの電話は時には長話になることもある。その中で、がんに関する体験談や、わかりやすい書籍をたくさん送ってくれた。これにより、日本のがん治療の問題点についても学ぶことができ、少しでも心の準備を整えられた気がしている。

日本におけるがんの現状

 日本は平和な国家である。危機感を感じることがなくぬるま湯体制国家である。平和ボケの生活習慣も影響している。食生活の欧米化、運動不足、ストレスの増加、喫煙や飲酒などが、がんの発症リスクを高めている。

 特に、加工食品や高脂肪食の増加、野菜や食物繊維の摂取不足は、大腸がんや胃がんのリスクを上げる要因となっている。友人たちとの会話の中で、食生活の改善がいかに大切かを再認識する機会が多くなった。

 このような状況の中で、なぜ、がんの死亡率が下がらないのかも考える必要がある。がんは細胞の突然変異によって発生する病気であり、一発でがんを消せる特効薬は存在しない。手術、放射線、抗がん剤治療を組み合わせるしかないが、転移・再発のリスクが常に付きまとう。特にステージ4(遠隔転移あり)になると完治は難しく、医療の進歩があっても死亡率の改善が遅いのが現状だ。

 治療の選択肢が限られたことも影響している。欧米では新しい抗がん剤や免疫療法が早く承認され、患者に提供されるが、日本では新薬の承認に時間がかかり、保険適用されない治療も多いため、最先端医療を受けるハードルが高いのが実情だ。この問題も、友人たちとの会話や情報共有を通じて再認識することができた。


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