10月6日、米国のスタートアップ企業で生成AI「Chat GPT」を開発・運営するOpen AIが発表した内容は多くの関係者に衝撃を与えた。同じく米国の半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)に最大10%出資し、その半導体を活用して巨大データセンターを構築するというのである。
AIインフラの「演算主権」
アプリがインフラを買収する時代
このニュースの衝撃性は、世界のテクノロジーセクターの覇権をめぐる力学が、従来の産業構造を超越した領域に突入していることを示している。もはや、AIに必要な半導体の安定供給というサプライチェーン上の提携ではなく、「AIインフラ覇権」を狙うものだと理解することが決定的に重要だ。すなわち生成AIというアプリケーションが、自らを駆動させるための演算資源を資本で囲い込む。すなわち、「アプリがインフラを買収する」という、産業史上かつてない逆転現象なのである。
シリコンバレーから始まった技術革命が、今や国家戦略の中核を占める時代となった。この10年間で、クラウドコンピューティングが企業の競争基盤を変え、5Gが産業構造を刷新し、生成AIが現在進行形で創造性の概念そのものを覆している。
テクノロジーの進化が描いた10年の軌跡。その果てにたどり着いたのは、GAFAMに代表されるビッグテックによる支配の風景だ。OSからクラウド、デバイス、データ、アプリの層まで覆い尽くす構造。その全てを押さえ込むことで、彼らは21世紀のテクノロジー覇権を独占している。GAFAMにエヌビディアとAMDを加えた7社の時価総額はおよそ18兆ドル。これは、東証に上場する約3800社の合計時価総額(約7兆ドル)の2.7倍に相当し、その覇権の凄まじさを物語っている。
冒頭に紹介したOpen AIの事例は、テクノロジー覇権の重心が「技術」から「演算主権」へと移ったという事実だ。今後の勝敗を決めるのは、どれだけの計算能力をどの地政空間で動かせるかである。
最高経営責任者(CEO)サム・アルトマンが進めるのは、AIを単なるツールではなく「演算国家」として成立させる試みであり、その投資総額は1兆ドルを超える規模に達した。もはや企業というより、一つの〝AI国家プロジェクト〟である。こうした演算資源を握る米国企業群は、国境を超えたサプライチェーンと膨大な資本を武器に、地球規模の「知能経済圏」を築こうとしている。
