早朝、東京駅から新幹線で出張先の駅に向かい、取引先と一仕事。夕方、先方の人たちと居酒屋で打ち上げ。
「明日も続きがありますから、今日はこの辺で」
一次会だけでおいとまし、知らない街角をホテルまで歩く。繁華街から外れた路地。そこに紫色の光。雑居ビルの1階。「来夢来人」と書かれた看板。ライムライトと読むらしい。ドアが一つ。会員制、と書かれた小さな札。窓はない。微かにカラオケのビートが響く。
スナックだ。今回の旅の到達点である。
スナックは全国どこにでもある。スタバやコンビニのない街はいくらでもあるが、スナックのない街はない(断言)。映画『君の名は。』で、主人公の宮水三葉たちは、湖のほとりの田舎である自分たちの地元、「糸守町」を嘆く。
「何もないもんなあ、この町。電車なんか2時間に1本やし、コンビニは9時で閉まるし、本屋はないし、歯医者もないし、そのくせスナックは2軒もあるし」。さすが新海誠さん!
どこにでもある。にもかかわらず、ひとは案外スナック未経験者である。もしかして、あなたも?
どこにでもあるのに入ったことのない異世界、スナックという業態は、1964年の東京五輪に合わせ、突如登場した。政府が、女性が深夜まで接待する飲食店を、風紀を乱す、と規制したのだ。日本の飲食業界はタフで頭がいい。すぐに新業態を考えた。「スナック=軽食」を主体とする「バー」。すなわち、現在のスナックである。
かくして日本中にスナックができた。マスターやママが1人で切り盛りし、供するのは酒と乾き物が主体。ローコスト、ローリスク経営なのだ。
