私は週に3回ほど、1日30分の旅に出る。「自然」を見つけにいく旅だ。
といっても、わざわざ休暇をとるわけじゃない。通勤の行き帰り。昼休み。そして週末の空き時間。30分あれば、案外いろんな自然に出会うことができる。
あらかじめお断りしておく。私は東京都心に暮らしている。勤め先は東京都目黒区と横浜市緑区。鉄道による、街から街への通勤である。
じゃあ、どうやって自然に出会っているのか。
ちょっとだけ寄り道をする。これが「30分の旅」の第一歩だ。まっすぐではなく、くねくねと通勤して、少しでいいから緑や水辺のあるところを通ってみる。そして、通るだけで終わらせない。
大切なのは、自分の〝心のレンズ〟を「標準レンズ」から切り替えて、日常を観ることだ。
毎日歩いている道端のコンクリートの隙間に生えた雑草を、「マクロレンズ」で観てみよう。雑草じゃない。名前がある。カタバミだ。黄色の花を咲かせている。白い羽に黒い点を散らした小さな蝶にも名前がある。ヤマトシジミが蜜を吸う。カタバミはヤマトシジミの食草だ。ピントを合わせれば、足元に名前のついた世界が広がる。
今度は「望遠レンズ」に切り替えてみる。駅の手前にコンクリート張りの川がある。壁面の白い梯子に、目の醒めるようなサファイアブルーの物体がとまっているのに気づく。なんだろう。
写真・柳瀬博一
カワセミだ。高さ2メートルほどのところから飛び込む。小ぶりな魚を口に咥え、水中から羽ばたき、さっきの梯子に戻って、丸呑みする。排水溝にしか見えなかった川の景色が、自分の中で一変する。ピントを合わせなければ気づくことのない「自然」は、人工空間のあちこちに潜んでいるのだ。
