2024年12月7日(土)

令和のクマ騒動が人間に問うていること

2024年11月28日

 軽井沢町のクマ対策を先導してきたプロ集団、NPO法人ピッキオに勤める田中純平さん。この国と自然にかける思いを我々に語ってくれた__。

 全国でクマの出没が相次ぎ、メディアの報道を見るたびに私は違和感を覚えます。

人の安全を守る。野生のツキノワグマも絶滅させない。町が抱える難題に正面から挑んだのが田中さんだった(WEDGE)

 クマは〝自然そのもの〟であるというのに、クマ=害獣、クマ=悪の観点からしか報じられず、「なぜこうしたことが起こっているのか」を深く解説している報道がほとんど見られないからです。

 しかも、「害」獣と決めているのは人間です。本来、人間もクマも自然とともに生きてきた仲間であるはずです。それなのに、人間の価値観だけで安易に「害」獣と決めつけ、クマをはじめとする動物だけにツケを負わせています。

 そもそもクマは植物の種子を森に広く散布する生きものです。食べた植物はクマの体を通って排泄され、新しい場所に種として運ばれる。その意味で、クマは「森をつくってくれている存在」だと言えます。

 人間は森なしに生きていくことはできません。森がなければ、水も空気も安定供給されません。地震や台風などの災害を見れば明らかですが、自然にはリスクがつきものです。リスクをゼロにすることはできません。同様に、クマが増えすぎたらどこかで事故が起きる可能性は避けられません。だからといって何も備えないままでいいというわけではなく、私たちはリスクを最小限にしていく努力をし続ける必要があります。

 時にはどうしても捕殺せざるを得ないケースもあるでしょう。しかし、クマの生息密度が高くなり、ただひたすら駆除するだけでは、害獣としてのイメージしか残りません。「行政や猟友会に任せておけば良い」「市街地を壁で囲ってクマが入ってこられないようにすれば良い」というだけの話でもありません。私たち人間の問題でもあるわけです。

 こうしたことを考えると、現在、全国で相次ぐクマの出没は、「人間がクマとどう向き合うか」だけでなく、「人間が自然とどう向き合い、生きていくのか」を考え直す時期が来ているということを、クマたちが身をもって教えてくれていると捉えるべきではないでしょうか。

 誤解のないように申し上げておきたいのですが、私はなにも「全てのクマを守れ」と言っているわけではありません。

 私がピッキオに就職した2001年当時、私有地の周りのごみや食べ物を食い荒らすクマが複数頭いました。多いときには年間240件を超える被害が出たこともあり、住宅街や別荘地に、クマが入り乱れていました。昨年度はまさに、それと似たような状況が全国各地で見られるようになったと言えます。

 「そんなクマは全て駆除してしまえ」

 当時もそんな声がありました。

 ただ、この点は何度でも強調したいのですが、駆除するだけでは何も変わりません。一時的に被害が減ったとしても、「なぜクマが市街地に出ざるを得ないのか」という根本原因が解決していないからです。


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