2024年12月7日(土)

令和のクマ騒動が人間に問うていること

2024年11月20日

 2023年度は、北海道と東北地方を中心にクマ類(ヒグマ・ツキノワグマ)が大量に出没した。全国で人の殺傷が219人(うち6人が死亡)、出没件数が2万3669件、駆除頭数がヒグマ1422頭、ツキノワグマ7675頭と、記録が残る08年度以降いずれも最多を記録し、歴史的にクマ類と人との軋轢が急激に高まった。

羅臼町で撮影されたヒグマ。野生動物と人との距離は確実に狭まっている(TETSUYA NOMURA/AFLO)

 こうした軋轢は今回が初めてではない。明治・大正期にも、北海道に入植した和人とヒグマとの間で壮絶な戦いがあった。なかでも、1878年の札幌丘珠事件(死者3人、重傷者2人)、1915年の三毛別羆事件(死者7人、重傷者3人)、23年石狩沼田幌新事件(死者5人、重傷者3人)などの惨事は、ヒグマ三大事件として語り継がれてきた。

 この開拓期のヒグマと人の戦いを第一次ヒグマ戦争とすると、第二次ヒグマ戦争は、戦後入植のためにヒグマの生息地に人が侵入した60年代当初に始まった。とりわけ62年は冷害と十勝岳爆発の降灰で山の実りが悪く、戦後最高の868頭が捕獲され、ヒグマによる人の殺傷は11人(死者3人)、家畜被害745件に及んだ。

 そのため、北海道では冬眠中または冬眠明け直後のヒグマを捕獲する「春グマ駆除制度」によって生息数を激減させる政策が90年までとられた。地域的な個体数の減少と分布域の縮小・孤立化が生じた。

 その後の30年間余りは、個体群を回復させるための保護政策として、雌グマの捕獲数上限を定め、人間に被害を及ぼす可能性の高い問題個体を選択的に駆除する方針がとられてきた。ヒグマの生息環境が改善し、捕獲圧の低下もあって、推定生息数は90年度の中央値5300頭から、2020年度の中央値1万1700頭へと倍増し(北海道庁資料)、分布域は過去40年間に約1.5倍に拡大した。

 2000年代に入るとヒグマによる農業被害が増加の一途をたどり、市街地に出没し、人や牛、飼い犬が襲われる事故が発生するようになった。21年度の人身被害件数は、14件(死者4人)、23年度の駆除頭数は1422頭となり、いずれも過去最高記録を更新した。

 そのため北海道は、22年に定めたヒグマ管理計画を改訂し、地域を区分して動物と人間の棲み分けを図る「ゾーニング」と個体数管理によって、市街地まで拡大したヒグマの分布域を押し戻すことを目標に掲げている。防衛ラインを設定して捕獲圧を強化することは、人とヒグマの生息地を巡る「新たな戦い」とも呼べるだろう。


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