2024年12月7日(土)

Wedge REPORT

2023年11月27日

 今から筆者が述べる内容は、必ずしも科学的知見に裏付けられたものではない。長年の経験と研究者やハンターなどの関係者から得た知識をもとにしたものであることをあらかじめお断りしておく。

間近で見た捕獲と奥山放獣

 十数年前筆者が群馬森林管理署長だったとき、ニホンジカの有害獣駆除業務に立ち会った。森林内にはシカやイノシシの通り道である獣道があるが、ここに括り罠(くくりわな)を仕掛けるのだ。

 ワイヤーでこしらえた輪にシカが足を突っ込むと自動的に輪がくびれて足が抜けなくなる仕組みである。何カ所かに仕掛けて、毎日これを見回らなければならない。

 その日は業務に当たるベテランの作業職員に同行したのだが、仕掛けていた罠がなくなっている場所があった。括り罠のワイヤーには控えがとってあり、周辺にあった伐倒木に結ばれていたのだが、それごと消えていた。

 作業職員はすぐにクマの仕業だと悟った。周囲を探すと案の定おぞましい獣の叫びが聞こえる。恐る恐る近づくと、人工林の立木に控えの伐倒木が絡み、その先に伸びるワイヤーに足をくびられたクマが行動の自由を失って暴れている。もしワイヤーが切れたら、クマに間違いなく襲われる。背筋が凍るとはこのことだ。

 作業職員はすぐに地元のハンターに連絡して来てもらった。そこで相談が始まった。

 現場の人たちは「撃ち殺しましょう。誰も見ていないし、解体して肉から熊の胆から毛皮をとってしまえばわかりませんよ」と言う。これが危ない。みんな口が軽いから、山村ではすぐにうわさが広まる。

 署長が殺せと言ったとなると事件である。定年退職間近なのにとんでもないことになる。

 結局、村役場に連絡してルール通りに処理することにした。役場から県に連絡して鳥獣保護担当の獣医が麻酔銃(吹き矢)を持ってやってくる。

写真 1 麻酔弾に麻酔を注入(筆者提供、以下同)

 獣医はクマの大きさを確認して、麻酔薬を調合して注射器状の麻酔弾を吹き矢に詰めて吹いた。ところがクマの皮膚が堅かったのか、麻酔弾が跳ね返った。クマはさらに狂ったように暴れ出す。思わずみんな後ずさりした。

 しかし、獣医が2本目の麻酔弾を用意していたとき、クマは徐々におとなしくなって寝てしまった。跳ね返ってもある程度麻酔が注入できたようである。念のためもう1本打ち込んで完全に眠らせた。

 さてそれからが大変。眠らせたクマの前後の足をそれぞれ左右2本の棒に縛り付け、4人で担いで林道まで引き上げた。

写真2 麻酔銃で眠っているクマ

 その間クマは大鼾(おおいびき)をかいている。おそらく昨夜からずっと罠から逃れようと大暴れしていたので、疲れ切っていたのだろう。前の2人はお尻の近くでクマが大鼾をかくので気が気でない。


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