林業界には数多くの補助制度がある。植えると補助金、草を刈ると補助金、間伐するのも補助金、伐(き)った木を運び出すのも補助金。林内に道を作ったり高額の林業機械を導入するにも補助金が出る。国のほか自治体の補助制度もあるから、経費の7割以上、時に満額を補助金で賄えることも珍しくない。
来年度の予算案によると、また新たな補助制度が設けられようとしている。「資源高度利用型施業」と名づけられた主伐、つまり森の木を全部伐る作業に補助金を出すというものだ。
補助金を支出するには公的な目的があるものに限られる。林業の補助金も、治山事業や森林の育成を行うことで水源涵養(かんよう)機能や山崩れ防止機能、生物多様性などを高め、最近ならCO2の森林吸収源として役立てることを目的に掲げられてきた。
植林だけでなく下草刈りや間伐にも出るのは、植えた苗木を育てるためである。
しかし、主伐には出さなかった。なぜなら森の木を全部収穫したら公益的機能の多くを失うからだ。だから国の方針の大転換になる。
山主にとっては主伐による木材の収穫こそ利益を得る最大の機会であり、経営計画に沿って行うものだ。それ自体は非難すべきではない。しかし、個人の経済行為に税金を投入するのはおかしくないだろうか。
しかも現実には主伐が進むことで、各地にはげ山が広がった。100ヘクタールを超える大面積の皆伐地さえ見られる。
山の木がなくなれば土壌流出や山崩れを起こしやすくなり、生物多様性なども破壊する。CO2も吸収しなくなる。森林土壌を失えば次世代の木が生えにくくなるだろう。伐採跡地の再造林をしないケースも少なくない。東北や南九州の各県で主伐後の状況を届け出から推測すると、伐採跡地(国有林を除く)の約6割が再造林されていなかった(朝日新聞調べ)。
今回の補助制度は再造林とセットで行い、森林の若返りを図るためと林野庁では説明している。しかし植えても再び森になるまでに順調でも数十年かかる。植えた苗がシカなどに食べられてしまう可能性も高い。また植林後に下刈りや間伐を行わないと、植えた木はちゃんと育たないだろう。形だけ植えても、森にもどらない可能性は高いのだ。