米大リーグで日本人初の本塁打王に輝いた大谷翔平選手は、新天地のドジャースでもさらなる活躍を見せている。そんな大谷選手のスイングの軌道は、少年時代に「バットがボールに対して上から叩け」と教わった世代には違和感が生じているのではないだろうか。
少し前なら「アッパースイング」とダメ出しの対象にすらなっていただろう。しかし、実際には大谷選手だけでなく、ヤンキースで2022年にア・リーグ最多記録を更新する62本塁打を放ったアーロン・ジャッジ選手や、大谷選手のエンゼルス時代の同僚であるマイク・トラウト選手らも同じようなスイングで柵越えを連発する。
近年のメジャーではデータ解析が進化する。その中の一つに打球速度と角度による「バレルゾーン」と呼ばれる領域があり、打球速度が時速158キロで打球角度が26~30度だと安打率や長打率が高くなるとされる。こうした背景もあり、日本の野球少年たちのスイングにも変化が見てとれるが、長く現場を預かる指導者とは打撃フォームを巡って軋轢が生じるケースもあるという。
本塁打王を生んだ道場
神奈川県横浜市の田園地帯の一角に「根鈴道場」はある。現役時代にメジャー経験こそないものの、マイナー3Aをはじめ、国内外の独立リーグでもプレーした根鈴雄次氏が主宰する打撃に特化した野球塾だ。
打撃マシンやティー打撃を行うためのスタンドが置かれる施設には、いくつか形状が独特なバットも並ぶ。根鈴氏が考案した練習用のバットで、近年はプロ野球選手も愛用している。実はこのバットこそ、大谷選手のような打撃フォームを意識するためのものだという。
根鈴氏が提唱する打撃は、ボールに対してバットの「面」を立てて捉えるというものだ。バットをゴルフのスイングのように縦回転で振り下ろし、地面に対して20~30度の角度までふり上がったところでボールに当たると、ボールはバレルゾーンの範囲で飛ぶという理屈である。オリックスの杉本裕太郎選手が根鈴道場に通った後、本塁打王を獲得するなど打撃を開花させたことで、一気に注目が集まった。