さらには、日本の高校で「甲子園」を目指すのではなく、将来につなげるために「高校年代」を海外でプレーするケースが出ているという。根鈴さんは「私の息子だけでなく、そういう選手はすでに一定数、います」と話す。もちろん、金銭的な負担もあって誰もが目指せる道ではないが、風大くんも奨学金によって道を切り開いた。
大谷選手のスイングも「やってみよう」
日本の少年野球人口は減少傾向にある一方で、熱心な保護者に恵まれた子どもたちは小さいころから高価な用具を手にし、野球のアカデミーに通うケースもある。両親が共働き、シングル世帯などは、親が少年野球の係などに負担を感じて入団を躊躇するのとは対照的で、少年野球の世界が「二極化」と指摘される所以だ。しかし、根鈴さんは野球の「英才教育」には懐疑的な一面も持つ。
「例えば、卓球やバドミントンなどは、10代半ばで世界のトップ選手になるケースを目にします。しかし、野球では10代前半の選手が20代以上の大人の選手と同じカテゴリーで勝負して圧倒するということは、まず起こりえません。それは、野球は技術ももちろん、パワーやフィジカルも求められる競技だからです。
ですから、小学校のときに目立っていない選手でも、年齢が上がるにつれて体が大きくなって頭角を現すケースもたくさんあります。小学生の間は、まずは野球を楽しめばいいと思っています」
このため、根鈴道場でも、直近の大会のためなどの目的で小学年代の子どもたちの個人指導の依頼があっても受けていないという。一方で、子どもたちが楽しむ環境を、大人の指導者が奪うことには警笛を鳴らす。
「子どもがスポーツニュースで見た大谷選手のスイングをマネして、『次の試合はこのスイングでホームランを打つ』って言ってきたら、少年野球の指導者なら結果的に打てなくても『じゃあ、やってみろ』と背中を押してあげるべきです。そこで、『お前にはそんな打ち方は無理だ』とか否定する指導者がいると聞きます。
彼らはボランティアで指導をしているので、親御さんも面倒をみてもらっているという後ろめたさから苦情を言えない。ボランティアという耳あたりの良い言葉で、子どもたちが抑圧されてしまっている。そういうことが野球人口の減少にもつながっているのではないでしょうか」