2024年4月29日(月)

人口減少社会とスポーツと子どもと

2023年9月28日

 今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を制した野球日本代表「侍ジャパン」の勇姿は記憶に新しく、国内のプロ野球はコロナ禍が明けてから観客が戻り、海の向こうの米大リーグでは、大谷翔平選手(エンゼルス)が投打の二刀流で席巻する。「夏の甲子園」では、慶應義塾(神奈川)が「エンジョイ・ベースボール」を掲げて107年ぶりの日本一へと輝いた。野球界の盛り上がりとは裏腹に、足下では少年野球人口の減少に歯止めがかからない。

(jbreeves/gettyimages)

 練習帯同が当たり前の「過度な保護者負担」、怒号も飛び交う「旧態依然とした指導スタイル」、高額な用具をそろえる「金銭的事情」などが要因とされる。今回、子どもが少年野球チームに所属している保護者へインタビューをすると、各家庭の少年野球に対する向き合い方も千差万別だったことが浮き彫りになった。

 ある保護者の「正義」は、別の保護者にとっては「悪」にもとらえられる。家庭の事情はそれぞれで、明るい少年野球の未来に向けた解決策も一筋縄にはいかない。ある保護者は「少年野球は闇」だという。「闇」はどこまで根深いか。実情を探った。

10人体験に来ても、入るのは3人

 侍ジャパンが優勝したWBCの歓喜に沸いた今春、ある少年野球チームの関係者は「今年はチームに入ってくる子どもたちが増えるかもしれない」と〝WBC効果〟に期待を口にしていた。

 たしかに、WBCの国民的関心は高く、あこがれを抱いた子どもたちへの効果は否定できない。しかし、イコール少年野球の競技者人口につながるかといえば、そんな簡単ではない。それは、少年野球は、どんな家庭の子たちも「熱意」と「やる気」で続けられるスポーツではなくなってきているからだ。

 東京都内のチームで低学年チームの父母会の代表を務める30代の女性に、こんな質問をした。

 「野球をやってみたいという子が10人体験にきたら、実際には何人が入ると思いますか」

 女性はこう答えた。

 「あくまで肌感覚ですが、3人いたらいいほうではないでしょうか」

 不特定多数の子ども10人ではなく、前提が野球に興味を持って、チームに練習体験に来た子どもですら、3割しか入団に至らないというのだ。

 その理由について聞いてみた。

 「実際にお子さんが野球をするとなると、練習を見守ることへの負担だけではなく、グローブにバット、シューズ、チームのユニホーム、練習用の上下、グローブには専用のオイルも必要です。チームによってはユニホームの貸与や道具の貸し出しもありますが、他の習い事と比べて、やっぱりお金がかかります。ご自身に野球経験がないと、『いくらくらい掛かりますか』と聞いてくる方もいらっしゃいます。それに、未経験のお子さんは最初、どうしても野球の動きができないですよね。そこで、キャッチボールをみて、『うちの子はだめだわ』とあきらめてしまう保護者もいます」

 子どもが野球をはじめるときの阻害要因に挙げられる「過度な保護者負担と」と「金銭的事情」などが入会のハードルになっていることがうかがえる答えだった。


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