もう一つは、指導者がほぼ全てのチームにおいて、ボランティアで担っている点にある。ほかの習い事は月謝に指導者に支払う報酬も含まれるが、少年野球は謝金がない。習い事の月謝は週1回で月額1万円前後とされるが、少年野球は土日、祝日すべてあって月額1000~3500円程度で済む。ボランティア指導者の負担を少しでも減らすため、保護者が「労力」を提供している構図ができあがる。
高い月謝を支払う習い事であれば、暴言を吐くような指導者には、保護者がすぐに抗議し、場合によっては担当の指導者の交代も申し出ることができる。しかし、指導者がボランディアという「負い目」が怒号や怒声を看過してきた面も否めない。
指導者に問題があるのであれば、他のチームへ移籍をすればいいという声もあるだろうが、少年野球の移籍について、保護者は「自分が住む町内会のチームにしか入れない」「移籍には現所属チームの了承が必要」などとさまざまな〝不文律〟を口にする。多くの少年野球チームが登録している全日本軟式野球連盟に確認したところ、選手の「引き抜き行為」を防止する観点などから、同じ年度内の移籍は原則的に禁止する規定があるという。ただし、22年度からは、転居や、指導者によるハラスメントなど考慮すべき事情がある場合には例外とすることも明記した。
ただ、移籍を求める事情も家庭によって、それぞれである。ある保護者は、息子が望むより高いレベルのチームへの移籍を申し出ると、監督とチームの代表から夫婦で呼び出され、「理解はできるが、こちらへの説明が先ではないか」と言われ、重苦しい雰囲気に包まれたという。
それでも野球を続けさせる意味
前出の夫婦は、それでも子どもたちに野球をやってほしいと願っている。夫はそのために休日をつぶし、千葉や埼玉、茨城まで遠征に送り届ける。長男のチームは強豪チームで、試合にはスタメンで出られないことも、もちろんある。
金銭的な負担も大きい。送迎費のガソリン代が月1.5万円、バットもグローブもスパイクも必要なものは買いそろえ、チームとは別に月謝1.7万円の野球教室に週1回通う。妻も練習の付き添いで時間がなければ、外食も増え、夏には合宿もある。
「野球に派生する出費は年間30万円を超えますね」。さらに、勉強の習い事も兄妹で合わせて3万円。「大きな旅行や買い物はしなくなりました。時間的にも、金銭的にも余裕はありませんから」と笑う。
それでも、夫が「もう腹をくくりました」と話し、妻も同調するのには理由がある。
「息子はプロ野球選手になるという目標を持って、練習に打ち込んでいます。もちろん、甘い世界ではありませんが、目標に向かって頑張ることは人間的な成長につながると思っています。少年野球を通じて、子どもたちは着実に成長をしています。野球の技術も、人間的にも。保護者がコミットする対価としては、十分すぎる。そう思っています」
夫婦が大好きな野球に子どもたちが熱中している。そこに家族の価値を見出しているからだ。
「もしも、お子さんが野球をやっていなければ、また違う家族の形があったのではないですか」。筆者の質問に、夫は「たしかにそうだと思います。だけど、後悔はありません」と言い切った。(つづく)