いま、世界最大のミュージアム群を運営するスミソニアン協会が揺れている。トランプ大統領は3月27日、「アメリカの歴史に真実と正気を取り戻す」と題する大統領令に署名したが、この大統領令の主要なターゲットがスミソニアンの博物館の展示にあるからである。
スミソニアン協会は、19世紀前半、英国貴族の私生児のジェームズ・スミソンの遺産をもとに組織され、1846年に時のポーク大統領が設立を認める法案に署名した存在である。スペースシャトルやコンコルドの現物をそのまま展示して人気の国立航空宇宙博物館や、所有者は呪い死にするとの伝説で有名なホープダイヤモンドが展示されている国立自然史博物館などで有名である。
この大統領令は、まず「これまで10年以上にわたって米国の歴史を殊更貶めるような形で書き換える動きが広範に行われてきたことを国民は目撃してきた」とする。そして「このような動きが米国社会の分断を強め、国家としての誇りを傷つけて来た」と批判している。
そのような歴史修正の動きの急先鋒として挙げられたのがスミソニアンである。大統領令の中ではいくつかの博物館が具体的にやり玉にあげられている。
新設が予定されているアメリカ女性史博物館が、女性スポーツに参加するトランスジェンダーのアスリートを讃える企画を予定していることに触れ、同博物館が「いかなる点においても男性を女性として認めないこと」を命令する。国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館も名指しされ、同館が「個人主義」や「核家族」が「白人文化」の側面であるとしていることを批判されている。
また、スミソニアン・アメリカ美術館における特別展「権力の形:人種とアメリカ彫刻の物語」において、「彫刻は人種主義を推進する手段であった」と主張している点や、人種が生物学的なものではなく社会的構築物であるとしている点も批判の対象となっている。
白人優位主義に染め上げる
大統領令は、それらを改善することでスミソニアンを「米国の偉大さの象徴としてふさわしいものに回復」させるとし、その責任者にバンス副大統領を任命している。これはスミソニアンにとってさらに悪い知らせだろう。
他国の国家元首に対してすら気後れすることなく、高圧的態度で、時にトランプ大統領本人よりもトランプ的と評される人物である。どのような過激なことが行われるのかは誰にもわからない。白人の女性に口笛を吹いた疑いがあるというだけで、リンチされて殺害された14歳の黒人少年の棺も、国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館から撤去されてしまうかもしれないと怯える人もいる。