バンス副大統領がいま注目を集めている。2024年夏に副大統領候補に指名された時はいったい何者かと世界が注目したが、それ以降はイーロン・マスク氏の過激な言動に隠れて目立たなかった。ところが、2月中旬のミュンヘン安全保障会議と2月末のホワイトハウスでのゼレンスキー大統領との激論によって、バンスに注目が集まっている。

欧州首脳が呆気にとられたミュンヘン安全保障会議
ミュンヘンでバンスは、ウクライナでの戦争終結への道筋について主に発言するとの大方の期待を裏切り、安全保障とは直接関係のない問題について欧州各国の政府を正面切って批判した。欧州の指導者たちの極右と協力しないなどのやり方は、自国民の意思を無視しており、言論の自由という基本的人権の抑圧であると批判した。これは、ドイツにおいて主要政党が決議において極右とは協力しないとしていることを念頭に置いていたものだ。
バンスはまた、イギリスにおいて中絶クリニックの傍で黙とうを捧げた人が中絶クリニックに対する抗議や追悼などを禁じる公共空間保護命令に反しているとして有罪となった事例を取り上げ、信仰深いことを罪とすることでイギリス人の信仰の自由が脅かされていると批判した。
移民問題についても、移民が欧州に大量流入するのはそもそも欧州指導者たちの責任であると述べた。有権者の意思を無視した移民政策が、欧州の移民問題の根幹だというのである。民主主義を守るためにウクライナを守ることを標榜している欧州の指導者たちが、実は国民の基本的人権を否定しており「非民主的」であると批判したのだ。
挙句にミュンヘンでの会議の本旨である安全保障問題については、米国ばかり頼るのをやめて、欧州の防衛を自分たちで強化しなければいけないと突き放した。
ウクライナ和平への建設的な道筋が語られると期待していた欧州首脳たちはバンスのこれらの発言に呆気にとられた。直接批判されたドイツの国防相は「容認できない」と述べた。他の国や組織の高官たちは、「無礼」であるとか、「けんかを売っている」と批判した。ただ、多くの出席者が無言だったことが、衝撃の大きさをより雄弁に物語っていた。
このバンス副大統領の演説に対して欧州の極右は高い評価を与えた。独極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のアリス・ワイデル共同党首は、「素晴らしい」と発信した。そして、バンス氏の帰国前に二人は会談した。