2026年5月19日(火)

ベストセラーで読むアメリカ

2026年5月19日

■今回の一冊■
LONDON FALLING
筆者 Patrick Radden Keefe
出版 Doubleday

 2019年11月29日午前2時23分、英国ロンドンのテムズ川沿いにたつ高級マンション5階のベランダから、19歳の青年が飛び降り死亡した。テムズ川をはさんだ反対岸には、映画「007」シリーズにも登場するMI6(秘密情報部)の本部ビルがあった。

 MI6の監視カメラが、青年が川に身を投げる瞬間をとらえていた。残された映像から、青年が自らベランダから飛び降りたのは明らかだった。

 しかし、米国の著名ジャーナリストが真相を追うにつれ、ロシアからきた暗殺者やギャングたちが野放しになっている、国際金融都市ロンドンの暗部が明らかになる。

驚くべき青年の二重生活

 ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー週間ランキングで、単行本ノンフィクション部門の第1位で4月末に初登場した。5月17日付の最新ランキングでも5位につけ4週続けてトップ5に入っている。

 書名のLondon Fallingは、ロンドンという都市の「没落・腐敗」と、青年の「転落死」というfallingのふたつの意味を込める。本書が浮き彫りにするロンドンの本当の姿は次の一説に凝縮されている。

 London is such a beautiful place that it can be easy, as you stroll around the city, to forget that much of it was built on imperial plunder. London is the capital of pristine facades, often painted in wedding-cake shades of cream or ivory; the city’s dominant aesthetic is a literal whitewash. To launder something—whether it is cash or a reputation—is to mingle the dirty with the clean, and one consequence of London’s new identity as a twenty-four-hour laundromat for dirty money is that the city is full of crooks with pretensions to legitimacy and businessmen who seem a little crooked.

 「ロンドンはとても上品で美しい都市だけに、街中を歩き回っていると、大英帝国時代の悪行によってなりたっていることを忘れがちだ。ロンドンといえば真っ白な外壁の建物が並ぶ街並みだ。そのほとんどが、ウエディングケーキのようなクリーム色か象牙のような白色だ。ロンドンのいたるところで目につく景観の美学とは文字通りうわべだけを取り繕う純白だ。なにかをきれいにするということは、お金であれ世評であれ、汚れたものをクリーンなものと一緒に混ぜ合わせることにほかならない。ロンドンが24時間営業のマネーロンダリング(不正資金洗浄)サービスという地位を新たに築いた結果、もっともらしく振る舞うペテン師と、ちょっと怪しげなビジネスマンたちが、この都市にあふれている」

 変死の舞台となった高級マンションの立地がまず普通ではない。バッキンガム宮殿やビッグベンまで歩いて20分というロンドンの一等地にある。


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