2025年3月20日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月12日

 米国のバンス副大統領がミュンヘン安全保障会議で、「欧州への脅威はロシア、中国のような外部からではなく内部から来る」等述べて欧州批判を行ったことについて、2025年2月17日付のフィナンシャル・タイムズ紙(FT)は欧州の視点から、2月16日付のフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトウング紙(FAZ)はドイツの視点から、2月17日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ )は米国の視点から夫々論じている。

米国のバンス副大統領がミュンヘン安全保障会議で語ったことの真意は(ロイター/アフロ)

【FT 論説:バンスの欧州への真の警告】(Gideon Rachman)

 バンスはミュンヘン安全保障会議で厳しい警告を発した。彼は、「欧州で私が最も心配するのはロシアでも中国でもなく、欧州内部からの脅威だ」と発言し、言論の自由と民主主義が欧州のエリートによって攻撃されていると述べた。

 彼が聴衆を説得することを欲していたのであれば、失敗であった。演説は全くの逆効果で、聴衆の多くが今や米国こそ欧州への脅威であると確信した。この演説と、ウクライナと欧州を横に置いてプーチンとウクライナについて話すとのトランプの決定を併せると、米国の文化戦争、安全保障、欧州の政治とが最早切り離せないことは明らかである。

 バンスの演説は80年間西側同盟の基盤であった自由、民主主義や価値についての考えをひっくり返すものである。トランプ政権のイデオロギーによれば、プーチンは自国と伝統的価値のために戦う戦士であり、ウクライナは間違った友人を持ったたかり屋となる。

 トランプ政権は欧州の極右こそ真の盟邦と見ている。バンスは「ドイツのための選択肢(AfD)」のような勢力を政権に入れるよう訴え、欧州をオルバン的ハンガリーの拡大版とすることを求めた。

 重要なのは欧州への戦略的意味合いである。トランプは明らかにゼレンスキーと欧州の頭越しにプーチンとウクライナについて取引をしようとしており、ウクライナは安全保障上の保証なしに領土割譲を求められるかもしれない。

 代替案は米国の支援なしで戦い続けることである。また、プーチンは北大西洋条約機構(NATO)の兵力を旧ソ連帝国の領域から取り除くことを望んでおり、欧州はトランプが米軍をバルト諸国あるいは更にその西部から撤退させるのではないかと考えている。

 欧州はまず、米国の安全保障上のコミットが決定的になくなる時に向けた備えを早急に進める必要がある。それには自立的防衛産業の構築、NATO外での欧州の相互防衛条約が含まれよう。トランプは貿易、防衛から内政に至る諸問題で欧州諸国を屈服させるべくあらゆる手段を用いるだろうから、欧州は米国との関係の derisking という苦しいプロセスを始めなければならない。


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