2025年に入り、中国発の人工知能(AI)アプリ「DeepSeek(ディープシーク)」が急速に普及し、米国オープンAI社開発の「ChatGPT(チャットGPT)」の競合相手となった。世界のAI産業は米国と中国を軸に発展しており、米中間での開発競争が益々過熱している。

こうした中、AIに関する国際会議「AIアクションサミット」が2月にフランス・パリで開催された。議長国のフランスもAI開発に積極的に取り組んでおり、新たなパートナー国、アラブ首長国連邦(UAE)と連携することで、市場をリードする米国・中国とのAI競争に加わりつつある。
デジタル主権と経済競争力を見据えたフランス
2月10日と11日にパリで開催された「AIアクションサミット」には、世界100カ国以上から1000人を超える政府代表者や企業関係者のほか、米国のバンス副大統領や中国の張国清副首相(科学技術担当)、インドのモディ首相といった各国要人も参加した。
同会議では、フランスのマクロン大統領がAIに関するルールが必要だと訴え、AI開発が社会や環境、ガバナンスに与える影響や、AIの国際的なルール作りについて議論された。共同声明の「人と地球のための包括的で持続可能なAIに関する宣言」には、フランスや中国をはじめ62カ国が賛同した。
一方、米国と英国は署名を見送り、バンス副大統領はAI分野への過度な規制に反対する立場を明確にした。これにより、ヨーロッパでのAI開発を牽引するフランスと米国との立場の違いが浮き彫りとなった。
フランスがAI分野で主導権を握ろうと試みる背景には、デジタル主権の保護と、経済競争力の向上を図る狙いがあると考えられる。まず、フランスはデジタル主権を、自国の戦略的自律に不可欠な技術やデータを管理する能力と捉える。
デジタル主権の保護は諸外国への依存を減らし、ひいては国内の機微な防衛・産業インフラへの介入を遮断することにつながる。この点より、フランスは自国でAI開発を進めつつ、他国に先んじて厳しい規制を打ち出し、フランス(並びにEU)の基準がグローバルスタンダードになる流れを作ろうとしている。
次に、自国発のAI技術はフランス企業の国際競争力の向上に貢献するだろう。自動車や電力、鉄道、航空、防衛といったフランスの主要産業でAIが幅広く活用されれば、生産性アップによる事業コストの抑制やハイテク化に伴う高付加価値が期待される。特に、世界第2位の武器輸出国であるフランスは、AIを駆使して防衛産業の高度化を図り、武器輸出市場でシェアの拡大を目指している。