UAEのAI産業の中心的な人物は、ムハンマド大統領の実弟、タフヌーン・ビン・ザーイド国家安全保障顧問である。米タイム誌で24年に「AIで最も影響力のある100人」に選ばれた。
彼はUAE最大の政府系ファンド「アブダビ投資庁(ADIA)」や、18年設立のAI開発企業「G42」の会長を務める。G42は23年、アラビア語で最も先進的なLLM(大規模言語モデル)である「Jais(ジャイス)」を開発した。
G42は24年、アブダビの別の政府系ファンド「ムバダラ」と手を組み、AIやデータセンター、半導体に特化した投資会社「MGX」を立ち上げた。このMGXが、フランスのAI産業に投資するファンドである。
UAEは、技術イノベーション研究所(TII)が開発した言語モデル「Falcon(ファルコン)」やG42の「Jais」を、世界的に普及させることを目標としている。この点から、フランスのAI産業への投資に紐づける形で、これらのモデルの導入も推し進める可能性がある。
フランス以外の投資先では、24年10月にMGX社が米国のブラックロック社およびマイクロソフト社と連携し、米国でのデータセンター設置や電力インフラ整備に300億ドルを投資すると発表した。UAEは資源収入から得た潤沢な財源を活用し、国内でAI産業の発展に注力しながら、将来的な国際展開を見据えて、今後も投資先を拡大させていくと考えられる。
AI産業を支える電力インフラ整備
AI産業の発展やデータセンターが拡大するにつれて、電力需要の増加が予想される一方、各国とも温室効果ガスの排出削減を目的とした脱炭素化への取り組みを迫られている。こうした中、フランスとUAEは、二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンエネルギー(原子力と再エネ)の利用に活路を見出している。
まず、世界有数の原発大国であるフランスは、70年代より原子力発電を柱としたエネルギー安全保障戦略を策定してきた。23年末時点、フランスでは56基の原子炉が商業運転し、これは米国(93基)に次ぐ、世界第2位の規模である。原子力由来の発電量は、総発電量の63%の320テラワット時(TWh)に達した。
24年12月には、新たな原発、フランマンビル3号機(設備容量1.6GW)が07年の着工から17年を経て、稼働した。マクロン大統領は22年に6~14基の原子炉を新設するとともに、全ての原子炉の運転期間を50年以上に延長する方針を示している。この原発計画が実現されれば、将来的にAIの普及で電力需要が急増しても、フランスは原子力エネルギーでカバーできる見通しである。
次に、UAEは他産油国に先駆けて、国内でギガ級の太陽光発電所を新設したり、アラブ湾岸諸国初の原子力発電を導入したりするなど、クリーンエネルギーの普及に注力している。23年には、第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の議長国も務めた。