トランプ政権の幹部が、イエメンの武装集団フーシ派攻撃を民間アプリ・シグナル上で検討し内容を伝えていた事で、政権がいかに安全保障をないがしろにしているかが明らかになった。それは、政権内の力関係をも顕わにした。

フーシ派攻撃検討のためにウォルツ国家安全保障担当補佐官がバンス副大統領他18人からなる「フーシ派攻撃調整のための中枢メンバー・グループ」を組織したが、そのグループにアトランティック誌の編集長を誤って加えていた。
シグナルは発信と受信の両エンドで会話を暗号化しているため、通話内容がもれにくいこと、そして時間を指定して内容を消去できるという特徴があるため広く使用されている民間メッセージアプリである。しかし機密情報に触れる交信には政府の公用通信機器やソフトを使用することが定められ、民間アプリの使用は禁じられている。シグナルが使用されたことは問題の交信には個人の携帯やパソコンを使用したことになり、これも明らかなルール破りである。
秘匿性が高いとはいえ、シグナルでの交信はロシアや中国等にハッキングされたり、公用機器より秘匿性がはるかに低い個人の携帯やパソコンから機密情報が漏れたりする可能性があり、また攻撃に加わった軍関係者の命が脅かされる危険性は高い。人命や機密情報の取扱いに全く注意が払われていなかったことに共和党を含む議会や安全保障関係者に不安が広がっている。
会話を消去することを前提とした行為は、公文書を記録するという規定にも反している。トランプ政権では広くシグナルが使用されている可能性があるが、記録保持の法律を回避するために記録消去を前提とするアプリ使用はプロジェクト2025で推奨されている。他にも移民排除や省庁の閉鎖、政府職員の強引な解任など多くの政策がプロジェクト2025案をベースにしている。
攻撃目標や使用する武器など作戦の詳細が民間アプリで共有されたこと、民間人が会話に招待されたことはいずれも諜報活動法違反とみられる。
「フーシ派攻撃調整のための中枢メンバー・グループ」には、国家安全保障会議法に定められたメンバーである統合参謀本部議長や軍が任命した人々も含まれていなかった。統合参謀本部議長ブラウンは2月に解任され、次期議長に指名されている退役空軍中将ダン・ケインは会話に招かれなかった。