第二次トランプ政権は誕生以来、洪水のような勢いで新たな政策を打ち出し続けている。ウクライナ戦争への介入や、イーロン・マスク率いる政府効率化省(DOGE)による政府機関の整理縮小予算停止など、つい先日起きたばかりの“大事件”ですら、はるか昔の出来事のように感じてしまう。
しかし、それぞれの政策は国のあり方、人々の人生に多くの影響を与えたことは忘れてはならない。本稿ではトランプ政権によるVOA(ボイス・オブ・アメリカ)やRFA(ラジオ・フリー・アジア)など、米政府傘下のグローバルメディアの実質的な解体について、中国専門家の立場から考えてみたい。
予想されていなかった全員解雇
RFAで働いていた中国系米国人ウォン(50代、男性、仮名)は嘆いた。
「大統領選挙ではトランプに投票したが、よもやそのトランプにクビにされるとは」
もっとも、ウォンはなんらかの改革が行われることは予期していた。それというのも、VOAやRFAの改革案はプロジェクト2025で提起されていたためだ。
プロジェクト2025とは、米保守系シンクタンクのヘリテージ財団によって2022年に立ち上げられた研究プロジェクト。第二次トランプ政権誕生を見こして、新たな改革案を準備することが目的だった。
23年に政策提言書「リーダーシップへの委任:保守派の約束」としてまとめられた。トランプ大統領は選挙中、プロジェクト2025については知らないと発言するなど距離をとっていたが、プロジェクト参加者の多くがトランプ政権に参与しているほか、新政策の多くが提言書に沿ったものであることも事実だ。
そして、この政策提言書にはVOAやRFAを統括する米国グローバルメディア局(USAGM)の問題点が挙げられていた。第一に非効率性だ。USAGMは多くのメディアを傘下に持つ。VOAのように政府機関として運営されるケースもあれば、RFAのように表向きは非営利民間団体でありながらも、その資金はUSAGMから提供されるケースもある。これらのメディアは重複しており、非効率ではないかと指摘された。
第二に反米情報を流したとの指摘だ。また、ジャーナリストの独立性を盾に米国にとって不利益な内容を報じたと批判されている。
そして第三に機密流出リスクだ。ジャーナリストとして採用された外国人はセキュリティクリアランス(米国政府の機密情報にアクセスする適格性の審査)を取得する。多くの外国人記者がセキュリティクリアランスを取得したが、その後転職した人も多い。セキュリティクリアランスを取得しているので、他の政府機関で雇用される際には再度の認証は不要となるだけに、米国の機密防衛の抜け穴になる可能性があると分析している。