2025年12月5日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年4月18日

 こうした問題がありながらも、適切に改革すればアメリカの価値観を広める強力なツールになりうると、プロジェクト2025政策提言書は結論づけている。ウォンも職場に大改革があることは予想していたが、全員解雇になるとは予想していなかった。

 第二次トランプ政権が誕生すると、イーロン・マスク率いる政府効率化省(DOGE)が大暴れし、行政組織改革はより過激にエスカレートしていった。そのあおりをうけた格好だ。

 ウォンはもともと中国籍だったが、政治的迫害を受けて米国に亡命。RFAで働くこととなった。

 米政府系メディアは、世界各地の権威主義体制の国から亡命したジャーナリストや活動家の受け皿となっていた側面もある。そうした人々を受け入れることは、民主主義の大国・アメリカという輝かしいイメージを作る一助となってきた。ただ、そうした米国のイメージを経済効果に換算することは難しい。

誤情報が広がる中国語ネット社会

 USAGM傘下のメディアが停止したことはどのような影響をもたらすだろうか。中国を専門とするジャーナリストとして、「在外中国人の間でますます怪しい情報が広がる」ことが懸念される。

 インターネットの時代だけに情報発信のハードルは低い。VOAやRFA以外にも、宗教団体系のメディア、さらには世界各地の華字メディア、SNSのインフルエンサー、ユーチューブはいくらでもある。こうした新興コンテンツの影響力はVOAやRFAを大きく上回っていた。

 世界共通の傾向だろうが、オールドメディアよりもSNSのニューメディアのほうが“面白い”。実際の影響力も高まっている。

 昨年、コロナ禍で中国政府に嫌気がさして日本に移民した中国の若者から話を聞いたが、中国政府に反感を持ったきっかけはユーチューブの中国語番組だった。中国共産党はいかに間違っていて、腐敗しており、中国がひどい状況にあるか。そうした動画を見ているうちに移民を決めた。

 つまり、VOAやRFAがなくなったとしても“量”の面で困ることはないだろう。だが、“質”の面ではどうか。

 新たな中国語メディアやインフルエンサーは玉石混交で、いい加減なものが多い。筆者も情報収集のためにそうしたアカウントをフォローしているが、これは面白そうだと思ったトピックでも、裏を取るとまったく状況が違って無駄足を踏むことがしばしばだ。

 VOA中国語版のキャッチコピーは「あなたの信頼できる情報源」だが、確かにVOAやRFAはそれなりの確度があった。複数人でチェックするなど組織的に信頼性を高める取り組みがあるかないか、その違いは大きい。

 中国人の社会は口コミが強い。SNSの発展に伴い、口コミの範囲はグローバルに拡大した。日本で暮らしていても、中国人のSNSを眺めていると怪しげな陰謀論や間違った情報が怒濤のように流れてくる。VOAやRFAが消えたことによって、誤情報の世界がさらに拡大することは間違いないだろう。


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