フランスでは23年、同国初のAIスタートアップ企業「Mistral AI(ミストラルAI)」が誕生した。同社は25年2月にAIアプリ「Le Chat(ル・チャット)」の配信を開始し、米中との市場争いを展開している。
また、マクロン大統領は米国や中国に頼らずにAI開発を促進するため、18年と22年に続き、第3弾目のAI戦略を発表した。これに基づき、AIインフラ面では、データセンターの建設を目的に利用可能な用地35カ所を整備することや、人材育成の観点でAI技術訓練者を現在の4万人から毎年10万人に拡大することが計画される。今後数年間でAI産業に1090億ユーロが投資される見通しだ。
AIパートナー国としてのUAE
フランスの野心的なAI投資計画に協力するのは、中東産油国のUAEである。AIアクションサミットに先立ち、ムハンマド大統領がフランスへの実務訪問を行い、マクロン大統領との会談で先端技術やAIの分野で協力を促進していく点を確認した。両首脳の立会いの下、AI協力に係る協定が署名され、UAEがフランスでの1GW(ギガワット)規模のAIデータセンター設置やAIチップ調達に向け、300億~500億ユーロを投資する予定である。
フランスは過去20年にわたり、UAEとの関係を発展させてきた。アブダビ首長国における仏軍基地の設置や仏トタルエナジーズ社による資源開発、ソルボンヌ大学アブダビ校およびルーブル美術館別館の開設を通じて、両国の結びつきは多岐の分野にわたる。
近年では、フランスからUAEへの武器輸出が際立っており、21年にはUAEが仏ラファール戦闘機80機を購入する契約(総額166億ユーロ)が締結された。またウクライナ戦争勃発後の22年7月、エネルギー面での脱ロシア政策を余儀なくされたフランスを支援するため、UAEからフランスへのディーゼル燃料供給が合意された。
UAE側は安全保障パートナー国の多角化を目指す中、フランスが国連安全保障理事会常任理事国かつ核保有国である点を重視し、フランスとの関係強化を図っている。今般、フランス・UAEともに自国の成長産業と位置付けるAI産業でも協力を深めることで、結びつきをさらに強めようとしている。
経済多角化に向けたUAEのAI戦略
UAEもこの10年、AI産業の育成を国家の優先事項の1つとしてきた。17年に「AI国家戦略2031」を発表し、31年までにAI分野を牽引する世界のリーダーになるという立場を明確にした。AI担当の大臣ポストを新設し、当時27歳でドバイ未来財団(DFF)評議会員のウマル・ビン・スルターン・ウラマーを登用した。19年にはAI人材育成を目的に、現大統領(当時皇太子)の名を冠したムハンマド・ビン・ザーイド人工知能大学(MBZUAI)をアブダビで開設した。
UAEがAI産業の発展に注力する理由は、石油依存の経済構造を多角化させるためである。産油国UAEにとって、最大の財政収入源は資源輸出であるが、14年の油価下落を受け、UAEの指導者らは持続的な経済成長に向け、石油収入への依存度を下げる必要性を強く認識した。
そこで、AI開発の可能性を見出し、技術開発に多額の投資を行っている。プライス・ウォーターハウス・クーパース(PwC)社の試算によれば、UAEのAI産業は30年までに国内総生産(GDP)の13.6%に達する見通しである。