「売却する覚悟はあるが、売却方針を決めたわけではない」。2月4日に開かれたパナソニックホールディングスのオンライン決算会見で、楠見雄規社長兼グループ最高経営責任者(CEO)が同社のテレビ事業についてこう発言すると、日本の産業界には大きな衝撃が走った。
関西の家電業界では昨年10月にもテレビ大手の船井電機が破産したばかり。楠見氏は白物家電や空調、照明事業などを手掛ける中核事業会社「パナソニック」の解体に言及し、各メディアは一斉にパナソニックのテレビ事業撤退の可能性を報じた。
同社はかつての「家電王国ニッポン」の代表的企業であり、日本の大企業経営の雛形ともいわれていただけに「パナソニックよ、お前もか」と誰もが耳を疑った。
「パナソニック」は解散し、3つの事業会社に分割
パナソニックが発表した再編計画によると、事業会社のパナソニックは2025年度中に解散し、白物家電を手掛ける「スマートライフ」、空調などの「空質空調・食品流通」、照明事業の「エレクトリックワークス」(いずれも仮称)の3社に分割する。スマートライフ社は将来的にはテレビやカメラなどの黒物家電を手掛ける「エンターテインメント&コミュニケーション社」との統合を視野に入れているという。
だがパナソニックはコロナ禍の2022年4月に持株会社制に移行し、各事業部門を8つのカンパニーに分社化したばかりだ。事業会社のパナソニックはその際に白物家電や空調、照明事業などを束ねる中核会社として誕生した会社だが、わずか3年で役割を終えることになる。
「パナソニックは過去30年間成長していない」。楠見社長はパナソニックのこれまでの経営を振り返り、こう指摘する。グループ売上高は24年3月期で約8兆5000億円だが、昨年末に自動車部品事業の売却を発表しており、その分の売上高を差し引くと連結売上高は約7兆円と30年前の水準とほぼ変わらない。
本業のもうけを表す連結営業利益もテレビやVTR事業などが好調だった40年前の5757億円を一度も超えたことがない。純利益については24年3月期に4439億円と過去最高を更新したものの、液晶パネル子会社の解散に伴う法人税負担の減少や、電気自動車(EV)向け電池生産に対する米政府のインフレ抑制法(IRA)による補助金などによるもので、決して手放しで喜べるような状況ではない。
それでもパナソニックの事業再編計画の発表を受け、同社の株価は一時20%以上も値上がりした。しかし23年夏当時から見ればすでに3割近く落ち込んでいたことを考えれば、もとの水準に戻したに過ぎない。