ロサンゼルスから車を走らせること約2時間、向かったのはカリフォルニア州サンディエゴ。メキシコ国境からほど近く、日本人メジャーリーガーのダルビッシュ有や松井裕樹を擁するパドレスが本拠を置くことでも知られる。
米UXPRESS 創設者兼 最高経営責任者(CEO)
1976年生まれ。埼玉県出身。米国ソニーでUX(user experience)のチームリーダーを務めた。 サンディエゴを拠点に、数多くの日系企業のグローカライゼーションをサポート。日本の「グローバルでアクセシブルなものづくり・街づくり」を実現するため、顧問・アドバイザーとして企業だけでなく地方行政にも積極的にサポートを提供している。人間中心設計専門家(HCD-Net)。米国国土安全保障省認定のウェブアクセシビリティー評価者。(WEDGE)
「サンフランシスコやロサンゼルスなど、州内にある各都市と比較して、白人やアジア人など、人種比率や年収などが『カリフォルニア州全体』の平均と近いのがサンディエゴの特徴です。私がここにリサーチの拠点を置いた理由もそこにあります」
小誌取材班がこの地で出会った井出健太郎氏は、日本企業の海外進出をサポートするUXPRESS社の創設者である。社名にも含まれている「UX」とは「User Experience」の略称で、製品やサービスの利用を通じて得られる「ユーザー体験」を意味する。
「日本企業には高い技術力があるのに、なぜ海外で刺さるプロダクトやサービスが出てこないのでしょうか?」
取材していた小誌記者は井出氏にこう逆質問され、考え込んでしまった。
「理由は二つあります。一つには海外のカスタマー・ユーザーについてよく知らない、理解していないこと。もう一つは、開発の上流段階から海外のカスタマー・ユーザーを念頭につくられていないということです」
つまり、外国人ユーザーの求めるUXを日本企業が理解しきれていないことだと井出氏は指摘する。
サンディエゴ州立大学で応用言語学の修士号を取得後、2007年から米国ソニーのUXチームを7年間率いた井出氏は、15年に独立。その後、島津製作所やサイボウズ、ヤマハ発動機など、60社を超える取引実績を持つ。
「日本企業がなるべく早く外国人のお客様を対象にしたビジネスをしなければならない理由の一つが、少子高齢化による国内市場の縮小です。また、近年の海外市場の成長は著しく、主要国の成長率はどこも日本を上回っています。加えて多様性への対応も急務です。世界の65歳以上の人口は、22年に7億5000万人ほどでしたが、50年には20億人にまで増えるとの予測もありますし、米国は障がい者の割合が人口の25%ほどいるとされています。サービスを受ける側の人が今後も多様化していくことは間違いありません」
世界に先んじて高齢化が進む日本は、多様化するニーズを掴み、対応していけば、将来、他国のモデルになれる可能性がある。
「そもそも海外では、企業がビジネスをする上で現在最も重視するポイントはカスタマーエクスペリエンス(CX)です。CXはUXよりさらに広い意味合いで、顧客体験全般を指します。強調したいのは、日本人が重視する『価格の安さ』でも、顧客が使わない過剰な機能を搭載した『製品のスペック』でもないということです。