「イノベーション」が世界を席巻している。さまざまな技術が生まれ、ポジティブな印象を受ける一方で、日本国内では「日本発のイノベーションが生まれていない」というネガティブな文脈で語られることがある。
だが、悲観ばかりしていても状況は変わらない。今、日本に必要な視点とは何なのだろうか。
「それは『日本でもできるよ』という前向きなムードを社会に浸透させること、つまり『フレーミング』を変えることです」
穏やかな口調でこう話すのは、AIや半導体などのハイテク企業が数多く集結し、「スタートアップの聖地」とも呼ばれるシリコンバレーのエコシステムを研究する櫛田健児氏だ。
米スタンフォード大学卒、カリフォルニア大学バークレー校で博士号取得。スタンフォード大学アジア太平洋研究所の日本研究プログラムリサーチスカラーを経て、2022年より現職。専門はシリコンバレーのエコシステムとイノベーションや日本企業のシリコンバレー活用。(WEDGE)
日本人の父と米国人の母のもとに生まれ、日本で育った櫛田氏は、高校卒業後に渡米し、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校で学んだ。現在は、カーネギー国際平和財団に所属し、カリフォルニア州のパロアルトにあるオフィスを拠点に、シリコンバレーと日本とを結ぶ取り組みを精力的に行っている。
フレーミングとは、考える時の「基準」を意味する。櫛田氏によれば、平成を象徴する「失われた30年」という言葉も、フレーミングを変えることで見え方が変わってくるという。
「この言葉から分かるのは、1980年代後半のバブル期をベンチマークにしているということです。その時の世界は、冷戦期でした。ドイツは東と西に分断され、ソビエト経済圏は孤立し、アジアでは中国やインドといった大国は基本的には内向きで、東南アジアもまだ発展途上でした。冷戦時代の世界は今よりもずっと閉じた、狭い世界だったのです。世界が内向きだった冷戦下に、日本は高度経済成長で著しい発展を遂げていたのですが、その時代の方がよほど〝特殊〟だったのではないでしょうか」