2025年5月23日(金)

SNS時代の戦略兵器 陰謀論 民主主義をむしばむ認知戦の脅威

2025年4月23日

 反移民、反ユダヤ、反ワクチン、ディープ・ステート……今やSNSでは、多種多様な陰謀論が飛び交うのが日常の景色となってしまった。そして、かつては「オカルトの与太話」であった陰謀論は、陰謀論が引き起こした2021年のアメリカ議事堂襲撃事件を契機として、今や社会の分断を深め、民主主義を侵食し、国家の安全保障を揺るがす、重大な脅威と認識されるようになった。
 そして陰謀論が拡散される様を注意深く観察すれば、その背後では中国やロシアといった権威主義国家による「認知戦」が展開されていることが読み取れる。陰謀論は今や、彼らの兵器でもあるのだ。本連載では、この新たな脅威の実態と対抗策を探っていく。
*本記事は『SNS時代の戦略兵器 陰謀論 民主主義をむしばむ認知戦の脅威』(共著、ウェッジ)の一部を抜粋したものです。
(Drazen Zigic/gettyimages)

 新たな安全保障の脅威である認知戦については、どのようなナラティブが悪用されやすいかを事前に確認し、拡散の戦略、手法や実行者を把握しておくことが備えに繋がる。中国の用いる認知戦の手法を分析した台湾の先行研究では、その戦略と利用される感情やバイアス、拡散するノード、拡散されるトピックスが整理され対策に活かされている。

 では、これを日本に当てはめるとどうなるだろうか。台湾だけでなく、これまで各国で拡散されたディスインフォメーショントピックスと、日本国内で拡散されたディスインフォメーションや虚偽情報(外国からの干渉でないものも含む)を反映させ、先行研究図にあてはめたものが下の図である。

 個別のディスインフォメーションやナラティブ拡散に対し、事後の対応ではすでに拡散されてしまった情報への対抗力に乏しいため、ファクトチェックだけではなく、ワクチンの予防接種のように事前の反論や典型的手口の共有をして抵抗力をつけておくことが重要であると現在は考えられている。これは、虚偽を暴く「デバンキング」を事前に行うことから、「プレバンキング(事前暴露)」と呼ばれる。

 そのため、防御側としては、ある程度の類型化と自国が攻撃を受けやすいであろうトピックやナラティブの棚卸を行う必要があり、そのために上図のような整理が必要となる。


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