2024年12月27日(金)

SNS時代の戦略兵器 陰謀論 民主主義をむしばむ認知戦の脅威

2024年12月27日

 反移民、反ユダヤ、反ワクチン、ディープ・ステート……今やSNSでは、多種多様な陰謀論が飛び交うのが日常の景色となってしまった。そして、かつては「オカルトの与太話」であった陰謀論は、陰謀論が引き起こした2021年のアメリカ議事堂襲撃事件を契機として、今や社会の分断を深め、民主主義を侵食し、国家の安全保障を揺るがす、重大な脅威と認識されるようになった。
 そして陰謀論が拡散される様を注意深く観察すれば、その背後では中国やロシアといった権威主義国家による「認知戦」が展開されていることが読み取れる。陰謀論は今や、彼らの兵器でもあるのだ。本連載では、この新たな脅威の実態と対抗策を探っていく。
*本記事は『SNS時代の戦略兵器 陰謀論 民主主義をむしばむ認知戦の脅威』(共著、ウェッジ)の一部を抜粋したものです。

イギリスで行われた反ワクチンデモにて、明らかにビル・ゲイツとワクチンに関するQアノン陰謀論に基づいた合成写真を掲げる女性(Hollie Adams/GettyImages)

 2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、これが未知の感染症ということもあって、公衆衛生の問題だけでなく大きな情報騒乱をも巻き起こすこととなった。このパンデミックによる情報騒乱を、世界保健機関(WHO)はインフォメーションとパンデミックを組み合わせた造語であるインフォデミックという言葉で表現するほどであった。

 このような混沌とした情報空間において、多くの陰謀論も拡散された。2020年の約11カ月間、グーグル、グーグル・ファクトチェック、フェイスブック、ユーチューブ、ツイッター(現X)、ファクトチェック機関のウェブサイト、テレビや新聞のウェブサイトなど、幅広い情報プラットフォームやメディアを調査した先行研究においては、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関連する637件の噂と陰謀論が52カ国24言語で確認されている。そのうち、全体の91%(578/637)が噂、9%(59/637)が陰謀論に分類された。拡散された主要な陰謀論は、次のような内容である。

・COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は「Certificate of Vaccination Identification by Artificial Intelligence(人工知能によるワクチン接種証明書)(Artificial Intelligence の略称であるAIという単語は、それぞれアルファベットの1番目と9番目でありAI=19 となる)」の略称であり、人為的なウイルスである。
・新型コロナウイルスワクチンを接種すると、マイクロチップが人体に埋め込まれ、5Gネットワークと接続される。これにより、世界のエリート層がチップにさまざまな信号を送り、人類を支配する。
・新型コロナウイルス感染症は、ワクチンを接種させる口実であり、このワクチンの本当の目的は市民を管理するためのデジタルIDに同期させることである。
・発展途上国でのワクチン接種キャンペーンの支援者であるビル・ゲイツは、新型コロナウイルスワクチンを利用して人口を管理統制する計画を実行している。
・イギリス放送協会(BBC)は、ビル・ゲイツが資金提供する将来のワクチンにはマイクロチップが組み込まれ、誰が新型コロナウイルスのワクチンを接種したかを追跡できるようになるだろうという詳細な記事を掲載した。
・新型コロナウイルス感染症は、汚染されたワクチンによって多数の人間を殺すための殺人計画である。

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